原著論文 こちら
「Pedicled superficial inferior epigastric artery perforator flap for salvage
of failed metoidioplasty in FTM transsexuals」
Manfred Schmidt M.D、 Martin Grohmann,MD and Georg M.Huemer,MD,MSC,MBA
原著論文 こちら
「Pedicled superficial inferior epigastric artery perforator flap for salvage
of failed metoidioplasty in FTM transsexuals」
Manfred Schmidt M.D、 Martin Grohmann,MD and Georg M.Huemer,MD,MSC,MBA
抜粋
SRSを希望するFTMが、選択肢の一つとするものにMetoidioplastyがある。この手術の目的は、肥大したクリトリスの先端に尿道を延長し、小さな陰茎を形成することである。しかし長期的に、また再建方法としても、瘻孔形成、尿閉という難治性の問題が起こる可能性がある。本件では、FTMのミニペニス形成失敗後の尿道再建に、浅下腹壁動脈(SIEA)穿通枝島皮弁を利用した一例を報告する。26歳のFTMで尿道瘻孔と尿道狭窄を合併し、術後の皮下血腫が起こり、尿道遠位端の壊死を起こした。ミニペニスは、左下腹部からの浅下腹壁動脈穿通枝有茎皮弁を利用して再建した。長期的にみて優れた性器の外観と、高い機能性、皮弁採取部の罹患率についても満足度は高い。筆者らは、本法がやせ型の患者にとって、尿道再建可能とする代替案になり得ると考えている。
2014.Wiley Periodicals,Inc.Microsurgery
SRSはトランスセクシュアルが行う性別転換手術の、最終段階として知られる。FTMのMetoidioplastyは、大きな陰茎形形成1,2)のようなリスクが少なく、性別適合のためのSRSとしては有効な方法といえる。MetoidioplastyはMeta…に向けて、と、男性生殖器をあらわすodionという、ギリシア語の単語から派生した言葉である。方法としては、肥大したクリトリスの靭帯を切断し解放3,4)し、先端に尿道を延長し、小さな陰茎を作成する。Metoidioplastyは男性器の外観に近いことがメリットであり、オペ時間の短さ、回復の早さ、皮弁採取部の損傷も限定的だ1,2)。本法のデメリットとしては、性的能力(注:挿入には不足する)の限界があり、立位排尿(注:着衣では)ができないペニスの小ささである。文献上、手術の合併症は発症率としては低い(20%以下)1)が、長期的には尿道閉塞、血腫、瘻孔、局所感染が挙げられる1,2,3-7)。小さな瘻孔の場合、大多数の患者は自然閉鎖に至るが、Metoidioplasyで発生した主要な尿道瘻孔を修正するのは、極めて困難である。組織局所の原因としては、一次手術で既に皮弁が使用されているため、二次利用できる局所(陰部)組織の選択肢が限られていることにある。
本稿では、Metoidioplastyを行った、やせ型のFTM患者における失敗例の代替案として、浅下腹動脈穿通枝有茎島皮弁による救済例を提示する。
症 例
26歳のFTMTS患者、当院でのMetoidioplastyを希望。腹側の尿道延長は、小陰唇内側と膣閉鎖時の粘膜から併せ2層構造にして筒状に形成、クリトリスに併設した。術後より、形成尿道全長に膨潤性の血腫が確認され、最終的には、創傷離開し瘻孔となった。検査結果から、凝固異常は指摘されていない。会陰尿道造瘻術で管理していたが、術後6週間で急性尿路症状を発症した。前回の術後状態が落ち着くことを待って、3ヶ月後には失敗したMetoidioplastyの再建が予定されていた(図1)。
形成尿道の近位は強度の瘢痕形成、遠位側は完全に崩壊したため腹側会陰尿道造瘻術を予定した。瘢痕切除後の当初は、構造的にも一貫していることから有茎鼠径皮弁による尿道再建を予定していた。 しかし鼠径三角部上の皮膚切開をしたところ、脈拍が明瞭に触知できる表在性動脈を確認できた。このようにして、左下腹部から表在性下腹壁動脈を含む島状皮弁を挙上した(図2)。 皮弁は筒状に形成し皮下トンネルから移植し、欠損部へ配置して尿道再建を行った(図3)。筒状皮弁の近位末端部は、尿道皮膚瘻に吻合した一方で、遠位端は切開した尿道全長開口部へ均等に固定し併合した。
14Frシリコンカテーテルを尿道へ留置し再建をした後、大陰唇にて補強し、一次的に創縫合をした(図4)。術後経過は良好で、術後14日でカテーテル抜去。審美性も満足度が高く、皮弁採取部の手術痕も患者には許容範囲内で、術後3ヶ月までフォローを行った(図5)。 立位排尿が可能となり、機能的にも患者には満足のいく結果となった(図6)。
考 察
MetoidioplastyはFTMが性器の外観を変更する方法としては、代表的な手術といえる。クリトリスを挙上し肥大した先端に尿道を延長しミニペニスを形成しようとした試みなど、Metoidioplastyの成功例として数例の異なる方式での報告がある3-10)(クリプテン又はクリトリスペノイドとも呼ばれる)。
しかしSRSにおいてこれらの関連した方法では、公開された術式の多くが、合併症を回避できるだけのものが見当たらない。特に、発達した膣組織の血管構造と解剖学的位置から、血腫または感染症が術後早期に発生する可能性が高い5)。更に、長期的にみても、尿道狭窄と尿道瘻孔形成という合併症の発生率が高いと報告されている5)。選択された症例では、これら上記の合併症が潜在しており、継続ケアが求められるにも関わらず、多くの患者が長期的には後遺症に難渋し修正としての二次手術が必須となる。陰嚢形成を含むMetoidioplastyの2.6段階の方法がHageとTurnhoutに報告されている5)。
尿道狭窄や尿道瘻孔形の修正には、頬粘膜移植片8)や陰唇皮膚皮弁6)または局所の有茎皮弁などの全層皮膚移植による尿道形成を含む、様々な手術の方法がある。とはいえ再形成尿道の自壊がおこると、上記の事例では局所の利用可能な皮弁不足が原因で失敗する。更に、残存の局所組織に重度の瘢痕があり、血流も十分でなく回復は困難が予測された。
筆者らの知る限りでは、SIEA(浅下腹壁動脈皮弁)筒状有茎皮弁の形成によるMetoidioplasty失敗後再建の事例はこれが初報告である5)。 手術直後からの腫脹、血腫形成に由来した尿道瘻孔、会陰皮膚瘻、尿道狭窄および形成尿道遠位部の崩壊合併例のために本件の方法を試みた。瘢痕部置換や組織局所の血流が豊富な脂肪皮膚皮弁を筒状形成し、一期的なMetoidioplasty修正術を行った。しかしこれは、患者がやせ型である場合の唯一の現実的な方法である点に、留意する必要がある。組織が肥厚した患者の場合、筒状形成は技術的に困難か血流が良好でないと考えられる。また肥厚した皮弁では、会陰性器領域に埋め込みそのまま閉鎖することは恐らく困難と考えられる。このような状況では、肥満患者であっても通常は薄い、遊離前腕皮弁の使用が代替案となる12)。尿道再建に使う遊離皮弁の前提条件としては、第一に薄いことが挙げられる。分厚い皮弁では、この部分にはめこんでもスペースが不足して閉鎖が不可能となる。いずれの皮弁でも、可能な限り皮弁を薄く採取をすることが、本法による術式では必要なことである13)。筆者らの意見は、非常に薄い皮弁を採取できた遊離足背皮弁が別の選択肢となり得る。この皮弁は通常、毛が生えていないという特徴から、尿道再建には非常に適している14)。一方、筆者らのようなMetoidioplasty失敗例だけでなく、FTMトランスセクシュアルごとに臨床状況が異なる場合には、SIEA(浅下腹壁動脈皮弁)筒状有茎皮弁による尿道再建という選択肢がある。術前の血管造影所見または、高解像度エコー検査が、この部位の豊富な血管系の解剖から皮弁のデザインを考える切り口となり得る15)。血管が不鮮明でもこれらの検査で同定することで、上記の皮弁を選択肢に入れることは考慮できる。
とりわけSIEAが選択された場合は、島状有茎皮弁の最大サイズで可能な限り遠位でまで伸びる血管群を追跡する必要がある。この皮弁の決定は、腹部中央に皮弁採取の創痕が残ることである。筆者らは線状瘢痕拘縮を回避するために、ジグザグ皮膚切開にて、有茎皮弁を挙上した。島状皮弁の位置は、患者の刺青は達しないよう配慮した。皮弁の反転部が横方向だったため、鼠径部に皮弁採取痕が残りにくいように皮下を通した。しかし、これは患者が修正手術をした以前の合併症に苦渋しており、最も安全性の高く創痕も短くなる方法を選択している。一方で、SRSによる創痕はスティグマとなるため、FTMらは傷痕には注意を払っている、術前に患者との議論が必要である。
Metoidioplasty失敗後再建の一法として、SIEA筒状有茎皮弁は良好な結果を期待できる選択肢となる。筆者らは
適切な皮弁が選択できないSRS困難事例(やせ型のFTM患者)では、SIEA皮弁の使用を提案する。本法の有効性を確認するには、より多くの検証が必要となる。