高度尿道下裂に対する一期的全尿道形成術(OUPFⅣ法);術式ならびに8例の治療成績

原著論文 こちら

ONE STAGE TOTAL REPAIR OF SEVERE HYPOSPADIAS: Operation Technique and Results  
日泌尿会誌,77,4,1986 
Kaori Imanaka, Tomohiko Koyanagi, Masaki Togashi, Yoshifumi Asano and Katsutoshi Tanda

[ 要旨 ]
  会陰部下裂2例を含む高度尿道下裂8例に対して一期的全尿道形成術(OUPFIV法)を施行した。6例に初回手術で機能形態共に満足すべき結果を得 た。 
  再手術を要した2例の内訳は新外尿道口の後退, 亀頭部離開, 各1例であった.
  OUPFIV法の特徴を他の術式と比較検討し, 次の点を強調した. 尿道に付着させた皮膚片(parameatal flap)が広範な剥離にもかかわらず血行障 害を来さず, 従って一期的尿道形成が可能なこと, 皮下縫合を数層に丁寧に行ない, 痩孔形成を最小限に食い止められたこと。

 はじめに 
  近年, 欧米を中心に尿道下裂に対する一期的手術が普及してきているがいまだ遠位型それも比較的程度の軽いものに限られている場合が多いよう であり, 高度の下裂, 特に会陰部下裂に対する一期的方法のまとまった報告は少ない。
  我々は昭和54年頃から積極的に一期的手術に取り組んできたが, 当初は程度の軽い遠位型にのみ適応としてきた1). そして, 高度の下裂に対して はより手術回数を少なくする考えから, 索切除と陰嚢形成を一次手術,尿道形成術を2次手術とする二期的方法をとってきた2)。 しかし, その後我々 が一貫して用いているparameatal flapによる尿道形成術の経験が重なるに従い, 次第により程度の強い症例へと本法の適応を広げるようになっ  た3)4)。 今回, 会陰部下裂2例をふくむ高度下裂症例に対してparameatal flapの原則にもとずいた一期的全尿道形成術(索切除, 亀頭尿道口形成術  陰嚢形成術、尿道形成術を同時施行OUPF(One stage Urethroplasty with Parameatal Flap)IV法8例の治療経験をまとめる機会を得た. 以下に術  式の特徴, 特に広範な剥離にもかかわらず, 尿道に付着させたparameatal wing flapの血行が保たれていることが一期的手術を可能にしたこと,  および手術成績を述べることとする。

症例 年齢
段階 手術日 手術時間 膀胱瘻増設 合併症 現状
1、T.K.
PR 1987.4.25 7:30 あり なし 満足
2、H.W. 1988.2.27 7:05 あり 外尿道口後退 手術待機中
3、N.T.
1988.5.29 5:10 あり なし 満足
4、Y.K.
PS 1988.4.25 5:55 あり 亀頭部離開 尿道形成術後に瘻孔形成
5、Y.T. PS 1988.9.10 3:55 なし 一時的瘻孔 満足
6、Y.I. PS 1988.10.3 4:55 なし 一時的瘻孔 満足
7、S.Y. PR 1988.10.24 7:50 あり 創部感染 満足
8、Y.T. 1989.2.13 7:45 あり なし 満足

   表1 OUPFⅣの結果  PS:陰茎陰嚢,   S;陰嚢,   PR;会陰

 

 対 象 

  昭和58年10月から昭和60年2月迄に8例に対してOUPF IV法を行なった(表 1)。
  年齢は2歳から6歳までで下裂の程度は索切除後の尿道口の位置により決定し, 陰茎陰嚢部3例, 陰嚢部3例, 会陰部2例である9いずれも大なり小 なり, 二分陰嚢, 陰茎前位陰嚢といった陰嚢変形を伴っていた。 症例により外陰皮膚の発育を促進するために術前testosterone軟膏局所塗布を行 なった。


 術 式(図1) 
  皮切ライン:まず, 必要ならmeatotomyをした後,6F栄養チューブを外尿道口に挿入する。 皮切ラインは図1A, 1, 2, 3のごとくとする. 即ち,  尿道形成には尿道口近位側を取り囲むU字型の切開線を先開きの形で延ぽし, 両側とも陰茎背側包皮内板へ延長, 背側12時で融合させる. この際内 板皮膚片の幅は形成尿道の口径を考慮して左右とも8mm前後の余裕あるものであること, 特にflapの基部すなわち尿道口の近傍(parameatal) では この幅よりも広くしておくよう注意する。更に遠位で環状溝を一周する切開線を置くがこの際, 亀頭側にも充分な包皮を残す様にする(図中◎印)ま た, 亀頭下面ではmeatal grooveに沿って延長させ, 亀頭最先端の正中線上で左右を融合させる。この点, 同じwing flap法でも尿道を切断せずにお いたOUPF II, III法3)4)と趣を異にする. 陰嚢形成用に頸部に弧状の皮切ラインも加えたがこの際背側皮膚根部のskin bridgeの幅(図中↓印)が狭く ならないように注意し, 陰嚢皮膚の一部を切開線に含めても構わない(図中○ 印)。
  索切除術 : 尿道形成用皮膚片を尿道に付着させたまま背側包皮, 陰嚢皮膚をDartos mobilizationの要領で陰茎より剥離, 陰茎の充分な脱臼を 行なっておく。 次いで尿道を亀頭から切断する形で鋭的に切開, 従来通りの索切除の要領で陰茎下面の線維性組織を切除,正常白膜で被覆された 陰茎海綿体を充分な長さにわたって露出させる。 かくして尿道は従来の尿道口の位置よりも, さらに近位側へ剥離された形となる. 亀頭下面では
 meatal grooveの両側の亀頭組織を陰茎海綿体より剥離, 左右に広げて新尿道が収納されるに足りる充分なスペースを作成して. おく(図.1B, c,   D)。 次いで索切除の完否を人工勃起にて確認する。
  尿道形成術 : これまでの操作で背側より腹側へ容易に移動した左右のparameatel wing flapを用いて先ず各々の内縁を正中線上で7-0の   Dexonにて 密 に結節縫合し新尿道の天井を形成する(図.1E)。 次いで6Fシリコンチューブを被覆するように(図 1F)新尿道の腹側縫合を同様の 要領でおこなう。 この際左右皮膚端の正中線上での縫合に緊張の加わるおそれがある場合には、より伸展性のあるwing flapを同側性に或いは交 叉性に翻転させる工夫をしている. 亀頭下面に収納される部分の尿道は先端になるにつれ次第に細くなるように新尿道を形成する. 以上の縫合線を さらに尿道皮膚片の皮下組織で二層に補強して尿道形成を終える。

A. 術前の外観 (A1腹側,A2斜め A3背部)および皮膚切開の輪郭。○印、◎印、↓矢印は、手術方法参照のこと
B. 尿道からのParameatel wing flapを亀頭、陰茎シャフトからDartos nibukuzatuionの要領で陰茎から剥離する。
C.尿道はシャフト腹側中隔の「線維性組織」を切除する過程で更にに剥離を行い、亀頭直下から陰嚢頸部まで切開する。
D. Cと同じ段階だが、陰茎シャフトは下方へおろして表示している。支持靭帯レベルまでDartos mobilizationを行う。
E, F.尿道形成術。最初に内側(E)を閉鎖し次いで外側(F)を閉鎖することで、翼端部は内側に配置した尿道カテーテルの上から皮弁で被覆する。
G. 亀頭、外尿道口形成。背面はByar法で形成する。外尿道口をSemicuff状とし、包皮と新生尿道の一部で亀頭下を覆っていることに注意する(◎印)。 
H,皮下縫合は深層ごとに近位から遠位へ。陰嚢頸部の皮下組織(星〇印)を使い、陰茎陰嚢接続部を慎重に覆う。            I. 新しい尿道は皮下の複数層で、十分に閉鎖する。陰嚢組織によって、シャフトの腹側を可及的に広く覆い、残りののャフトについてはByar法で覆う。
J. 皮膚部分の閉創は腹側(J1)と斜め(J2)にみられる

  亀頭・外尿道口形成 : 新尿道の12時の部を7-0 Dexonにて亀頭最先端に固定した後, 漸次左右の亀頭端と尿道端を結節縫合し, 型の如く亀頭,  外尿道口形成とする. この際新尿道口の6時の方向をsemi cuff状として新尿道口の先端が3mmほど亀頭先端より突出する形にしている(図1G)これ によりスリット状の新尿道口の縦軸は尿道の長軸とほぼ直角になりより正常に近い外尿道口とすることができる。 尿線も陰茎の長軸に沿った直線 状のものを期待出来るようになる。 

  皮下縫合 : 旧尿道口より亀頭部までの新尿道の上に何層もの皮下縫合をおくことが痩孔防止の為にも肝要である.。 皮下縫合は近位側より遠 位側へ, それも漸次深層から表層へと一層ごとにおこなうがそのための第一のステップとしてまず背外側にあった左右の陰嚢皮下組織を陰茎腹面正 中線上で縫合, ついでByar法で残りの陰茎部を被覆するようにした. 陰嚢皮下組織を用いて陰茎腹面を可及的に広い範囲で被覆縫合しておくことが 本来少ない残りの背側包皮を用いた陰茎の被覆に重要なことである(図1H)。 また, この操作で陰嚢形成術も必然的になされる。 Byar法を用いた
 皮下縫合に際しては亀頭直下で先にfrenulumの皮下組織をあわせた部分へも丁寧に皮下組織を持ってきておく。こうして新尿道はそれ自体の皮下 縫合も加えて4~5層の陰嚢及び陰茎の皮下組織で充分に被覆されたことになるわけである(図11)。 なお, この間陰茎が自由にスライドすることを 確認しつつ上記の操作を行なうのはいうまでもない。 以上の操作を的確に行なうことで痩孔形成・索変形再発・陰茎捻転など術後の合併症を未 然に防ぐことができる。

画像1:手術終了時、斜めからの外観。尿道が会陰から亀頭先端の間(画面では切れている)で再設置されている。 
画像2;症例8の術後6週間の状態、スリット状の尿道口に注目。皮膚左側にはナイロン縫合が見える。

  皮膚縫合:同じく7-0 Dexon結節縫合にて型の如く行なう(図1. J1, J2)。
  トロッカー針を用いて膀胱痩を設置し, 術創を圧迫包帯にて被覆して手術を終える(画像1)。
  術後の処置は既報のごとくであるが尿道留置は2週間程度置いている. その後自排尿させ排尿状態を確認して膀胱痩を抜いている.

 結 果 (表1)
  手術時間は3時間50分から7時間50分, 平均5時間45分であった68例中何ら合併症なく治癒したものが3例。術直後に痩孔形成, 創感染あるも保 存的に治癒したもの3例で6例は初回手術にて機能, 形態ともに満足すべき結果を得た(画像2, 3, 4)。
  再手術を必要とするような合併症をみたものは2例で内訳は外尿道口後退(症例2), 亀頭部離開(症例4),各1例ずつであった. 外尿道口後退の1例で は新外尿道の腹側がByar flapともども陰茎陰嚢部付近まで離開し, 同部まで尿道口が後退したが幸い, wing flapの背側は残存しており, 近々,    extension urethroplastyが予定されている。 Extension urethroplastyを施行した亀頭部離開の1例では, 術後小痩孔を形成し経過観察中である

 部下裂に対する一期的手術は理論的には可能だが実際にはその困難性から段階的手術の方が無難とするむきが多く, ごく最近の成書でもそ の旨, 記載されている5)6)。最近, Ehlichら7)は陰嚢変形を伴う高度下裂症例に対し, 包皮皮膚のfree graft(Devine)8)あるいは有茎皮膚ロール(Duckett)9)を用いて3例で一期的手術が可能だったとしているが, 詳細は述べられていない。                           高度尿道下裂の一期的手術を困難とさせている要因としては,  1. 形成される尿道長が極めて長くなること,  2. しばしば合併する二分陰嚢や 陰茎前位陰嚢といった陰嚢の変形に対しても形成術を必要とすること,  3. 外陰皮膚の発育が本来不充分なこと, などがあげられよう。
  我々はすでに二分陰嚢をともなう会陰部下裂に対する一期的手術の成功例を症例報告として発表した10)。その後, さらに会陰部下裂1例, 陰嚢部 下裂3例及び,従来はOUPF III法を行なっていた陰茎陰嚢部下裂3例にも積極的にOUPF IV法を行ない, 本法を確立した術式とした訳である。 以下,  他の術と比較検討しつつ本法の特徴を述べる。
  高度下裂の尿道形成に際しては, 先のEhlichらの報告の如く, Devine法やDuckett法とする報告が多く、われわれの様なparameatal flapをもち いた報告はほとんど見当らない。 本法の大きな特徴として上述の方法に比して尿道の端々吻合をおこなっていないので、術後の吻合部狭窄の危 険が少ないことが挙げられよう。 事実, 今回の経験でも術後尿道狭窄を来した例はなかった。 Parameatal wing flapは本来, 極めて伸展性に富 む包皮内板をもちいているため, 尿道形成に際し緊張が加わることは少ないが, 仮にそのようなことがあってもDenis-Browne法に準じて新尿道の 腹側の一部は解放のままとし, 後述するような数層の皮下組織でこれを被い尿道形成とすることも可能である。 
  本法類似のかなりの長さのparameatal flapは1900年にRussell11)が提唱しているが, 形は有茎でも殆どフリーグラフトに近く, 血行障害は必至 で勧められる術式でない12)とされほとんど省みられなかったと思われる。しかし, Des-Prez13), Broadbent14)らはparameatalskin flapはかなり  の尿道のmobilizationを含む広範な剥離を行なっても栄養障害を来さないことを報告している。 我々の遠位型下裂に対する一期的手術(OUPF I~  III法)60例余りの経験でも然りであった。既に報告した如く, flapの栄養が尿道内の血流を介たものであることが最大の理由と考えられたが、さ  らに今回のOUPF IV法の8例の経験は包皮内板に両側性に剥離を加え, かつ尿道を広範にmobilizeしてもflapの栄養に影響をおよぼさないことを実  例をもって示した訳で先のCreevyの指摘は妥当とはいえない(画像5)。

 いずれにしても下裂の程度が高度になるに従い, 陰茎下面には尿道形成に供しうる皮膚が絶対的に不足するだけに, 我々が提唱するparameatal wing flapの原則に基づく皮膚片の取り方は理にかなったものといえよう。                                先に報告した陰茎陰嚢部下裂に対する一期的方法(OUPF II, III法)では尿道を亀頭より離断しないこととしたが, 本法では離断している9程度の軽い遠位型下裂においては尿道は下裂はしているが尿道海綿体は陰茎腹面に沿って亀頭先端まで発達していて従来考えられていたように無形成を示すものではない. しかし,下裂した尿道の側端はBuck筋膜を欠き, そこに皮下組織に乏しい陰茎皮膚が線維性に癒着しているこの癒着は外尿道口の近位側で最も顕著である。この皮膚索skin chordeeともいえる現象が勃起に際して皮膚の自由な伸展を防げ, 陰茎の腹側屈曲, すなわち索変形を来す原因となっている。それゆえ遠位型ではいわゆるskinlysis, 実際には陰茎皮膚のDartos mobilizationにて索変形を矯正できる訳である. これに対して近位型下裂や高度の遠位型では尿道海綿体が無形成~低形成であり, これ自体が索変形の成因に深く関与している。 従って下裂尿道そのものの離断なくしては索変形の矯正は期待できない. 実際, 本法を行なった8例の下裂尿道の組織は無形成に近い状態に過ぎなかった。OUPF IV法の確実性にかんがみ, 従来はOUPF III法の適応としてきた陰茎陰嚢部下裂にもIV法を行ない良い結果が得られた. IV法の確立とともに手技的に難しいIII法の適応は少なくなるものと予想している。皮下縫合の詳細は強調に値する。 縫合線が比較的同一線上にあるというこの種の手術では回避すべき方法をとったにもかかわらず, 持続性の痩孔形成は8例中皆無であった. これは数層の皮下組織で尿道が保護されていることが最大の理由と考えられる.。本来,皮膚そのものの発育が悪い高度尿道下裂でこのように数層の皮下縫合が可能であったのはあらかじめ陰嚢皮膚が広範に剥離されていて, これで陰茎下面腹側, さらに遠位の尿道を被うのに利用できたためと思われる。 陰嚢皮膚を陰茎腹側の被覆に応用する考え方は一期的Cecil法ともいえる皮膚縫合と考えられるが同様の概念はTurner Warwick15)も言及しており, 陰茎下面の皮膚の絶対量が少ない例では一考すべき方法と言えよう..
この操作でByar法による残りの皮膚創面の被覆が無理なく施行できることになる。また, 先にも述べたようにこの操作により自ずと陰嚢は腹側へ移動し, 陰嚢形成も同時に完了する。                                           以上, OUPF IV法の術式と成績を述べてきた。 これらの成績は近位型という最も困難性を伴う症例に対してのものであるにもかかわらず遠位型に対する我々自身のOUPF I~III法の手術成績, 或いは最近のDuckett法を用いたde Vries16)らの成績に比べても何ら遜色ないものであり, 本法は機能, 形態共に満足すべき結果の得られる優れた一期的方法と考えられた。 
 今後, 症例を増やし, 成績向上をはかってゆきたい

 ま と め                                                        1. 会陰部下裂を2例を含む高度尿道下裂8例に対して一期的全尿道形成術(OUPF IV法)を施行した.6例に初回手術で機能形態ともに満足  すべき結果を得た。
 2. 再手術を要した2例の内訳は新外尿道口の後退,亀頭部離開, 各1例であった.
 3. OUPF IV法の特徴を他の術式と比較検討し, 次の点を強調した. 尿道に付着させた皮膚片(parameatal flap)が広範な剥離にもかかわ ず血行障害を来さず従って一期的尿道形成が可能なこと, 皮下縫合を数層に丁寧に行ない, 痩孔形成を最小限に食い止められた