子宮粘膜にてプレラミネートの尿道形成準備を行い、骨血管柄つき前腕遊離皮弁で陰茎形成を行ったFTMの事例

原著論文 こちら

Case Report
Prelamination of Neourethra with Uterine Mucosa in Radial Forearm Osteocutaneous Free Flap Phalloplasty in
  the Female-to-Male Transgender Patient 」

Hindawi Publishing Corporation 泌尿器科症例報告(2016) Volume 2016, Article ID 8742531
http://dx.doi.org/10.1155/2016/8742531            2015年12月18日受領 2016年2月29日承認

Cristopher J.Salgado1), Lydia A.Fein2), Jimmy Chim1), Carlos A. Medina2), Stephanie Demaso1), and Christopher Gomez3)
1,Division of Plastic, Aesthetic, and Reconstructive Surgery, University of Miami Miller School of Medicine, Miami, FL 33136, USA
2, Department of Obstetrics and Gynecology, University of Miami Miller School of Medicine, Miami, FL  33136, USA
3, Department of Urology, University of Miami Miller School of Medicine, Miami, FL 33136, USA

問い合わせ:Lydia A.Fein2)lafein@med.miami.eduまで
編集者:Giorgio Carmignani
 本稿はクリエイティブコモンズより配布されるオープンアクセス記事です。原著の趣旨を損なわない範囲でいかなる媒体でも使用・配布・複製を許可します。Copyright © 2016 Christopher J. Salgado et alら。


 前腕遊離皮弁によるPhalloplastyはFTMの新生陰茎作成で、一般的に使用頻度の高い皮弁である。しかし、泌尿器科的合併症は頻繁に発生し、多くの患者にとって術後の重要な目標であり立位排尿が妨げられる。(近年)粘膜を用いて尿道を固定したプレラミネート法で、陰茎部尿道を構築することで、これら泌尿器科的合併症、特に狭窄および瘻孔の減少に改善がみられている。従来は頬、膣、結腸および膀胱が、こらら粘膜移植片の供給源として報告がある。著者らは、前腕からのPhalloplasty前段階で子宮切除・膣閉鎖術を行ったFTM患者が、子宮粘膜を使用して尿道形成のためプレラミネートを行い成功した事例を報告する。術後3ヶ月で立位排尿が可能となり、逆行性膀胱造影でも狭窄や瘻孔の徴候はみられなかった。これらの結果は、Phalloplastyを受ける患者が陰茎部尿道形成のためプレラミネートをする場合に、子宮粘膜が十分な選択肢となり得ることを示すものである。


1、序文
 多くのFTMにとって新しい陰茎を作ることは、性の移行において重要なステップの一つである。この手術の目的は、感覚的で審美的に優れた陰茎を形成することで、性交で挿入可能また立位排尿と、双方に活用できる陰茎を作ることである。多くの方法が考案されているが、前腕遊離皮弁は長さといい、確実に確保できる血管柄、複数の神経支配及び柔軟性から、なおPhalloplastyでは一般的に選択される皮弁となっている1)
 万全の技術であるにも関わらず、前腕皮弁によるPhalloplastyにおける泌尿器科的合併症は、依然として遍在する課題である。報告された最多のものでは、41%の患者が泌尿器合併症として、主に尿道狭窄および尿道瘻孔を経験しており、ほか合併症も80%と高い2,3)。これらの後遺症は特にFTM患者に発生するのだが、生来の女性の尿道をまずは延長し、新生尿道平面部を構成した後、前腕遊離皮弁にて形成した内部の振子部尿道と吻合することが、発生要因となる。頬粘膜は無毛、湿潤環境で厚い上皮を有するため採取が容易で、尿道形成のため汎用されている4)。そのため、頬粘膜と類似の性質を有する膣粘膜は、FTM患者の尿道を構成するために使われることが多い5,6)
 皮弁を形成して移植するに先立ち、陰茎部内の尿道をプレラミネートで準備することで、前腕遊離皮弁によるtube-within-a-tube法による一期的形成法と比較して、泌尿器科的合併症を減少させる可能性がある3,6)。分層植皮片はプレラミネートに最もよく選択されてきたが、狭窄や瘻孔が接続部や尿道平面部分にも頻繁に発生している。粘膜植皮片による尿道固定が、瘻孔や狭窄率を減少させる成功例を考慮すれば、陰茎内尿道を粘膜でプレラミネート形成することは有益といえそうだ。Zhangらの経験では、 膣粘膜により平面部の尿道形成をした プレラミネートPhalloplastyでは狭窄率が4.5%であり、瘻孔発生率は31.8%、そのうちほぼ半数は自然治癒している5)
  FTM患者に特徴的なのは、患者自身の子宮粘膜が利用可能なことで、子宮摘出術はPhalloplastyの第一段階で同時に実施される。陰茎部分の尿道形成プレラミネートに子宮粘膜を使うという選択肢は、これまで報告されていない。本症例では、FTM患者の前腕血管柄付き遊離皮弁Phalloplastyにおいて、皮弁内に形成尿道のプレラミネートを子宮粘膜で行った成功例を報告する。


2、方法
 20歳のトランスジェンダー男性が、生殖器手術も含むSRS(GCS/本稿ではSRSで統一する以下同)事前評価のため、マイアミ大学美容・矯正センターを訪れた。患者は、トランスジェンダーヘルスの世界的専門職協会の標準治療に準拠して、Phalloplastyを受ける適切な候補者であった7)。患者は、SRSに向けた心理状態を確認する精神科医からの書類2通を提出した。患者からは、開腹子宮摘出術(TAH)、両卵管卵巣摘出術(BSO)、膣切除およびプレラミネートによる血管柄付き遊離前腕皮弁によるPhalloplastyについての相談があった。
リスクと利益が患者に説明され、インフォームドコンセントが得られた。手術の第一段階で、開腹による子宮切除、両卵管卵巣切除、膣閉鎖と膣前壁と小陰唇による尿道延長が行われ、引き続き左前腕部に尿道のプレラミネートが実施された。膣粘膜後壁と切除した子宮の残存内膜腔をプレラミネートのドナー組織として採取した(図1(a))。

図1(a).子宮・卵巣摘出術後、プレラミネート用に切除した子宮粘膜の一部と卵巣
(b).子宮と膣粘膜を前腕皮弁へプララミネートするため、フォリーカテーテルへライン状に巻く
(c)、逆行性膀胱尿路検査にて、形成尿道の開存を示している 


 最終的に陰茎部尿道のプレラミネートは、子宮からの移植片、膣粘膜を患者の左前腕尺側前面に移植して形成が行われた。最初に全ての粘膜移植片をイソジン生理食塩水で洗浄してから、24Frのフォーリーカテーテルの周囲に移植片の粘膜部分が外へくるように巻きつけて、固定用縫合糸で縫合した。子宮粘膜を遠位に配置することで、モニタリングが容易になる(図1(b))。この構成を前腕皮下縦へ配置すると、最終的に陰茎を形成したに尿道も含めた管状の皮弁形成が可能となる。患部はスプリント固定を行い、術直後に感染徴候はみられなかった。プレラミネートされた皮弁部分の洗浄は、術後1週間から1日2回おこなった。プレラミネートされた形成尿道内全体を洗浄するために、フォーリーカテーテルに孔をいくつか開けてから、粘膜移植片を縫合している。
 SRS第一段階における皮弁部分へのプレラミネートから約6週間後、前腕から血管柄付き遊離皮弁によって陰茎を形成し露出したクリトリス上へ移植固定し尿道を延長する手術が行われた。ステージ間に期間をおくことは一見好都合に見えるが、6週間は長い。傷が癒えるには十分な時間で、患者にとっては耐え得る範囲の期間である。
 尿道の吻合は、膣と子宮粘膜によって皮弁内で形成された新生尿道と、生来の尿道間で行われた。マイクロサージャリーによる血管神経吻合、生殖器への組織接続,陰嚢形成、そして亀頭形成までを含めてPhalloplastyを終了した。術後、患者は遊離皮弁の集中的モニタリングのためにICUへ入室した。3週間の入院後、皮弁採取部位を覆ったウシコラーゲン部分へ分層植皮を行い、恥骨上カテーテルと尿道カテーテル2本を留置して退院した。Phalloplastyの第二段階から2ヶ月後に、手術室において患者に膀胱鏡検査と逆行性膀胱尿路検査(RCUG)を実施した。

3、結果
 逆行性膀胱尿路検査(RCUG)では、狭窄,瘻孔兆候のない、全尿道開存が示された(図1(c))。同様に、膀胱鏡検査も問題なく実施され、形成した尿道粘膜は生来の尿道と接合していた。尿道最遠位部の生検を行ったところ子宮内膜組織様を呈し、これは元々は子宮内膜移植片であることに由来するものと想定できる。尿道開存が確立し、恥骨上部のカテーテル痕も閉鎖したため、陰茎内にカテーテルは新たに交換しなかった。
 排尿を試みたところ,形成した陰茎で無事に立位排尿を行うことができた。患者には外尿道口ダイレーターを渡し、形成尿道遠位部狭窄を予防するために、毎日のダイレーション指示をおこなった。

4、考察
 立位排尿はほとんどのトランスジェンダー男性がPhalloplastyに求めることでもあり、形成尿道の作成に伴う泌尿器科的合併症の予防は課題である。尿道延長、形成尿道のプレラミネートの両方に粘膜を使うことで、有望な結果を得ている6)。筆者らの患者では、粘膜とプレラミネートを行うことで、吻合部瘻孔を含む泌尿器科的合併症を、有意に減少させることができた。
 プレラミネートは主に皮膚からの植皮片を使うが、粘膜片を使い尿道を形成することで、生来の尿道との親和性が良好である。組織学的にみても、粘膜は非角質化上皮を有しているため、角化した上皮を有する皮膚よりも、粘膜である尿道との類似性が高い5,8)また、粘膜の創傷治癒を行う可能性があり、受傷部位での瘢痕拘縮が少なくなる4)

 子宮粘膜は、患者がPhalloplasty前に子宮摘出術を受けている場合容易に入手できる。この粘膜は患者が子宮摘出術を、開腹、腹腔鏡または膣式いずれの術式で受けていても採取が可能である。この粘膜は特にFTM患者の子宮のように萎縮した状態では、非ケラチン化した高密度の腺上皮細胞が繊維性間質を占めている9)。 ケラチン化の不足と引っ張り強度の不足、その双方が陰茎内尿道となるためにふさわしい性質を備えている。
 他の粘膜移植片は、手術野としても制限または加工が必要となる。頬および膀胱粘膜移植片のいずれも選択肢になり得るが、上記の手術操作を行うことにより感染および他の合併症リスクが増える可能性がある。膣粘膜は摘出された粘膜が破棄されるところを活用する点では経済的だが、患者がテストステロン療法や未経産の場合は膣管が小さく、移植片としては不足する場合がある。適切な粘膜が採取できない場合に、皮膚と粘膜の複合的な移植も選択肢となるが、これは完全に粘膜由来からの移植片に比べて、予後不良となる可能性がある6)。筆者らは、子宮粘膜が構成する独創的な使い方によって、尿道を含む前腕皮弁Phalloplasty にも使用することができることを証明した。この試みでは、膣と子宮内膜を使いプレラミネートをした。この成功例が示すことは、子宮粘膜が、陰茎部尿道をプレラミネートする材料として膣粘膜と並び選択肢に入れることができる、そして恐らく単独でも選択可能な粘膜といえる。無論、更なる検討が必要である。

 子宮粘膜組織は、卵巣摘出後はエストロゲンシャワーの影響を受けなくなり、現実的にはテストステロンによる保護を受けることから移植片の子宮内膜がん発症リスクは低い10)。筆者らは、形成した陰茎の最遠位に子宮粘膜を配置したことから、この懸念があり、モニタリングをしている。悪性腫瘍が発症した場合の切除は、形成した陰茎にとってもけっして有意義なことではない。

5、結論
 陰茎部尿道のプレラミネートをするための、現実的な選択肢である子宮内膜は、プレラミネートのための粘膜供給源を提供する。これが、Phalloplastyに懸かる尿道合併症を減少させる方略の提案となる。複合移植片の使用によて、外科医が不必要な手術を避けることにもなる。しかしこれには、より長期の、フォローアップを含む更なる調査が必要となる。前腕遊離皮弁Phalloplastyにおいて、子宮粘膜による陰茎部尿道のプレラミネート形成の本症例における成功は、FTMのSRSを実施する外科医にとっても新しい技術を提供するものである。


利益相反
 いかなる利益相反もない

参考文献
 原著論文参照のこと