Phalloplasty ; The dream and the relaity

原著論文こちら

Mamoon Rashid, Muhammad Sarmad Tamimy.
Indian J Plast Surg.2013 May-Aug:46(2):283-293.

=抜粋=
 形成外科技術が長年に渡り進化を遂げたように、Phalloplastyも長い道のりを経ている。Gillisらに普及された有形皮弁は合併症が多く、のちのマイクロサージャリーの出現によって、前腕皮弁に取って代わられた。骨皮膚複合型のこの皮弁は、まるで [全ては一つの為 1つは全ての為に]のように、尿管とペニス双方の強度が確実に得られるものだ。新しく尿道形成をするときに、予めカテーテルをラミネートした尿道形成によって、狭窄と瘻孔の軽減が期待されていたが、皮弁失敗が多くうまくいかなかった。陰茎補強材は様々なバリエーションのものが使われている: 形成陰茎の知覚がいくらか改善した後に人工物を挿入するが、感染率が高く故障することも多い。前腕遊離皮弁が第一選択だったが、皮弁採取痕が隠れること、マイクロサージャリーの専門的知識をさほど必要としないことから、有茎知覚付き前外側大腿皮弁が代わって選択されるようになっている。知覚もあり強度もよい状態である。患者の審美的、機能的な希望に応じるだけでなく、美的な亀頭を再建することが可能になっている。再建に起こり得る合併症としては、皮弁障害を含む瘻孔、尿道狭窄、補強材関連の諸問題がある。

 KEY WORDS: Gender reassignment, penile reconstruction, phalloplasty


= 序論 =
 医学における永続的な夢の最たるものは、疾病や外傷によって失われた人体の複製、臓器交換の可能性である。男根、男性性のシンボルは、腎臓や肝臓、心臓や胸よりも注目を浴びる程度は少ない。それは恐らく、陰茎はなくても生きることができる、と考えられているからだろう。これは(陰茎という)器官や機能が実に不思議であることが、別の理由として考えられる: 感情や環境の変化にも同じように反応する。 控え目に見積もっても、他の臓器と異なり、遺体からの移植は不道徳の極みだろう。形成手術の理想として、真の陰茎に極似したPalloplastyは夢のまた夢で、形成外科の理想を追い求めるものとされている。これはいかなる場合にも、利用可能な人体の素材によって、機能だけでなく、出来うる限り完璧な陰茎を再建するという、大事な目標を見失わないことでもある。 本稿で我々は、最善の方法を決定するために、長年検討されたさまざまなPhalloplastyの術式を検討する。またこれら一連の手順の一般的な合併症を議論し、別途予防法を示すことにする。


= Phallplastyの適応 =
 公表されているPhalloplasty一連の流れの中で大きなものは、まずSRSで、方法の適応としてはこの患者群に限定されるものではない。Phalloplastyの主な適応症は以下に記載する(表1)。 

 

= 到達目標 =
 HageとDe GraafはPhalloplastyのための理想的な要件について6)、1993年に以下を述べている: 一期的に再建できる方法であること。立位排尿が可能で使用に耐えうる新しい尿道。触覚と性感いずれもの再獲得。補強材を挿入できるだけの十分な容量がある。総合して、審美的にも患者が満足する。最後に、ドナーエリアに機能損傷がなく最小限の瘢痕で済むこと。
 通常の形と機能、そして患者の認識にもこれらと強い関連がある7)。Hageらは、患者が術後に期待することを調べた7)。彼らの研究では患者の52%で以下が見られた:陰嚢(96%)、亀頭(92%)、硬さ(86%)、審美的に魅力のある外観、タイトな水着を着る(91%)または脱げる(81%)。全て、しかし1人の患者は立位排尿を期待している。強調しておきたいのは、これら殆ど全ての患者がFTMであったということだ。


= Phalloplastyのさまざまな技法 =
 陰茎を再建するための様々な技術が、上記の目的を達成するために、長年に渡って行われてきた。特に微少血管術の登場以後は、形成外科手術の進歩に伴い期待される目標が更に高くなる傾向が続いていた。以下の段落では、Phalloplastyで使われる様々な方法を説明していく。 


= 不特定なパターンの皮弁 = 
 チューブ入り腹部皮弁は、初めて陰茎を作る人のたに、BogorazとGilliesによって行われた方法だ。この皮弁は通常、陰茎を正式に作る前段階で複数回の手術を行う。彼らはこれを何年も続け2,8)たが入院長期化や皮弁の高い失敗率も関連している。審美性と機能的な満足は次善の検討項目になっていた。比較的最近の刊行物では、Bettocchiら9)が陰唇皮膚でチューブを包んだ尿道を形成し、恥骨上腹部皮弁へ組み込みPhalloplastyを行った、FTM85例の結果を報告している。彼らは患者のほぼ2/3に良好な外観の陰茎を形成することができたが、合併症発生率は70%と有位に高かった。 これら合併症のほとんどが尿道皮弁に関連しており、De Castroら多くの外科医は、腹部からの皮膚皮弁や膀胱/頬粘膜移植片を利用して尿道形成を試みてきた。この技術において合併症は少なくないが、適切な大きさと形の陰茎を形成することが可能だ10)。    


< 有茎皮弁 >
=鼡径皮弁=
 鼡径皮弁は、1978年にPuckettとMontieによって初めて、陰茎再建に使われた11)。1999年、ポーランドの研究報告では、FTM127例が外側鼡径皮弁を使用した一期的Phalloplastyを受けている12)。事例中20.5%に、皮弁遠位端の壊死やほか何らかの合併症が見られた。皮弁そのものの障害は5%以下である。尿道形成は37%の症例中、5症例のみに補強が行われた。この手順は、近年のPhalloplastyの最終目標には及ばないものの、他の複雑な方法を選択できない場合の代替案にはなる13)。さまざまな鼠径皮弁の工夫が記載されている。形成後の陰茎に硬さをもたせるため、SunとHuangは複合型皮弁の提案をしている。これは表層血管を含む鼠径外側の有茎皮弁(長さ11cm 幅10cm)と腸骨稜の骨を含むものである14)。 Akozらは、深部、表面双方の腸骨血管を使用して、血管つき皮膚や骨を含めた皮弁の使用を報告している15)


=前外側大腿皮弁=
 Descampsらが、この皮弁によるPhalloplastyを初めて報告した16)。彼は微少血管吻合をしないPhalloplastyの利点を指摘しているが、彼の患者1名のみが、複数回の手術を経て尿道形成までを完了できた。その後Rubinoらが、知覚付きPhalloplastyに使える皮弁として、前外側大腿皮弁の使用を報告した17)。外側大腿皮神経の断端は皮弁の知覚獲得のために、陰部神経や陰核背神経分枝に縫合される。術後半年で、2.5cmの2点識別が確認されている18)。 Lumeneらは尿道用のチュ-ブを前外側大腿皮弁に設計したtube-in-tubeでの一期的Phalloplastyを報告している19)。Rashidらは、有茎前外側大腿皮弁による部分損失、または完全な陰茎損失による患者14人の再建例を公表している20)。全ての事例において、尿道はtube-within-tubeで設計され、全例生着している。半数以上(57%)の事例では、尿道は一期的に接続を行い瘻孔は12.5%に起こったが、復元されている(図1)。           

= 大腿筋膜張筋皮弁 =
 Santanelli とScuderi21)らが、FTMらのPhalloplastyに島状TFL皮弁を使い良好な結果を得ている。皮弁採取部位が目立たないこと、安全な知覚付き皮弁として推奨している。


< 遊離皮弁 >
=前腕遊離皮弁=
 ChangとHwangらが1984年に前腕皮弁を使ったPhalloplastyの中国式皮弁デザインが導入されて以降5)、世界中殆どの再建外科医がPhalloplastyをする際の主な選択肢となっている。現在それは他の皮弁と比較し、Phalloplastyの目指す標準的な最終目標と考えられている22~24)。前腕の尺骨無毛範囲が、尿道再建に使われる。陰茎・尿道形成は、tube-in-tube方式で皮弁を反転して作成する(図2,3)。この皮弁の利点としては、男性患者個々の条件に皮弁を合わせることができることだが問題は、尿道狭窄、初期の尿道瘻孔の多さ、補強材やプロステーシスが必要であること、前腕の皮弁採取部位に(図4)目立つ傷が残ること、前腕皮膚のサイズが前腕の太さに依存することなどである。一部の外科医は組織の萎縮による陰茎周囲径の減少26)、審美的な欠陥に至ることを感じている25)
 Doornaertらは23)単一の医療チームによって行われた前腕からの陰茎形成316事例を発表した。彼らは通常の外観をもつ陰茎と陰嚢を作成するために信頼ある技術として、これらを報告している。二期的手術によって機能回復は達成される、 患者は立位排尿と多くの事例では性的満足度も得ることができる27)。長期フォローアップでも、皮弁の生着と患者満足度は良好な結果を得ている。患者の殆どが身体的心理的満足度を得ているが、手順としては一期的に完了できないこと、最大で25%の皮弁関連合併症と64%程度は尿道関連合併症が起こることを、伝える必要がある28)
 前腕皮弁の変形は長年に渡ってさまざまな報告がある。チューブを埋め込んだ植皮片と皮弁の再加工は、下部尿道の瘻孔も少なく合併症がほぼない技術である27)。Prakashは尿道のプレラミネートによる前腕皮弁からのPhalloplastyでは、有意な瘻孔および狭窄を経験していないことを報告している29)。      Biemer30)は1988年、この皮弁部位の血管分布を改善するために皮弁外観の中央に尿道を配置した前腕遊離皮弁をデザインしたが、尺側の無毛皮膚を尿道用に使う中国式皮弁デザインのメリットがなくなること、外尿道口狭窄症を発症する傾向がある31)。Gottlieb、は形成した亀頭との連続性があり中央に尿道が位置するようなデザインを提案した。これであれば、陰茎長さを損なうことなく、周囲縫合線と外尿道狭窄を防ぐことができる31)


= 血管柄付き前腕遊離皮弁 =
 本法は追加の補強材を必要とせず、前腕遊離皮弁によるPhalloplastyを導入しやすくするために始まった32)。尿道瘻孔は40~50%程度、尿道狭窄は20%以上が報告される33,34)。前腕の皮弁採取部の罹患率は、症例中、橈骨骨折を含む9%程度が報告されている。Fangによれば、本法によるPhalloplastyを受けた患者22名に、陰茎骨折は認められなかった34)。症例のうち70%以上は、前腕に含まれる補強材の強度によって、性交も良好に行えている35)。二期的血管柄付き前腕遊離皮弁も、知覚付き複合皮弁として記載されている36)。Mutafは古典的tube-in-tubeによる有茎血管柄つき前腕皮弁を解説している37)。血管尽き再建陰茎はその後移植床である前腕へとりつけた(図5)。有茎部は3週間後に分離した。複数段階かかるこの方法は、前腕皮弁全ての利点を有し、なおかつマイクロサージャリーの設備を必要としない。尺骨前腕遊離皮弁は38)、前腕遊離皮弁に代わり、無毛の複数個所の皮膚を使うため新尿道内に毛が生える問題を軽減することができる。 


= 上腕外側遊離皮弁 =
 1987年にUptonらに記載された上腕外側遊離皮弁によるPhalloplastyは、比較的皮弁採取部位も目立だたず、再建陰茎の大きさも確保できる利点がある39)。二期的遊離前腕皮弁によるPhalloplastyの概念とよく似ており、上腕外側内へ複合的に張り合わせた新尿道も完全に血管新生尿道と合わせて、勃起プロテーゼの使用を可能にすることができる40)。Khouriらは複合的上腕外側皮弁で作成した5年後までのフォロー経過を公表している41)。 彼の患者はPhalloplastyが完了するまで平均で5つの手順を必要としている。彼は術後1年以降、全症例で無合併症の症例を報告している。全ての再建陰茎において性感と触覚・知覚、性交中の勃起可能なプロステーシス使用ができる陰茎が形成できる。


= 骨血管茎つき遊離腓骨皮弁 =
 本皮弁によるPhalloplastyはSadoveらが1993年に報告した42)。この皮弁の主な利点として、追加の補強材を必要としない強さであり、長い血管茎は大腿動脈を含む皮弁とend-to-end吻合を可能にする、また皮弁採取部位は靴下で隠せる。長期フォローでも、本皮弁は良好な結果を示している。再建後9年でも腓骨は残存し、皮弁上での感覚も確認されている。多くの患者は、性交時の性感とオルガスムスを報告している43)。本皮弁での(尿道用としてのプレラミネーテーション尿道形成は、高い確率で皮弁不全および尿道合併症を起こしており、あまりお薦めできない44,45)


= 前外側大腿遊離皮弁 =
 Feliciらは46)一貫性のある形態の再建陰茎による患者の高い満足度を得た、ALT遊離皮弁による6症例を報告している。皮弁は知覚を有し、勃起可能なプロステーシスの挿入も容易である。


= 遊離広背筋皮弁=
 LDFF(遊離広背筋皮弁)は適当なサイズの陰茎を再建するために、成人、小児双方で利用される。陰茎長さ47)14~18cm (小児13~16cm)48),周囲径11~15cm47)(小児は10~12cm)48)程度が本皮弁で形成できる。皮弁生着の面でも信頼できる皮弁である。殆どの症例で皮弁採取部位が閉鎖でき47)、瘢痕は服で隠れることになる。通常、尿道形成は頬側粘膜を使う47,48)。再神経支配(胸骨神経に吻合した胸腹側神経)された遊離広背筋皮弁の特長として、膨張可能なプロステーシスが使えることまた、筋肉を自発的に収縮されて性交のための偽勃起も見られる49)


= 遊離肩甲皮弁 =
 遊離肩甲皮弁による陰茎再建は、Yangらが2003年に報告した50)。 術後5年の追跡調査では、全皮弁において生存していた。また彼は、尿道瘻孔、狭窄、プロテーゼ突出、また感染いずれも見られなかったと報告している。彼は本皮弁について、陰茎再建に必要な量の組織を確保し、機能的で、審美性も優れた、理想的な皮弁として推奨している51)


《 尿道形成 》                                                 
 以前の試みは、男性生殖器の形態を再構築することにのみ力が注がれ、尿道の再構成は二次的な目的とされていた。新生尿道を構築してもしばし瘻孔や狭窄が起こるので、他の執筆者らはこの試みを諦めた。患者の理解が深まるにつれて要求も高くなり52)、尿道形成はの主な目標へ含まれるようになった。
 尿道再構成に必要な諸法が報告されている。振子部尿道再建のため、プレラミネーティング、事前の形成、tube-in-tube、または皮弁による再建が行われている。屈曲部の尿道については固定された尿道、膣や陰唇局所の皮弁、Phalloplastyに必要な延長した尿道の構成成分、別々の皮弁および皮膚または粘膜移植片によるものが報告されている。プレラミネーティング技術の導入により結果は改善したが、終了までの手順が増えていった。 
 一期的手術により、 単一皮弁を延長した尿道が出きることは興味深いが、尿道合併症の可能性は高くなる。BorogazとGilliesは筒状皮弁を用いたtube-in-tubeの概念を浸透させたが、本法は放射状の前腕皮弁を用いた5)ChangとHwangらによって普及された。皮弁の一部は、尿道のため筒状に整えられて、残りの皮弁は尿道を覆うように圧延されて、陰茎の形を整える。この設計は他の遊離皮弁や、可能な限り有茎皮弁によるPhalloplastyに採用されている20.39)


《 プレラミネーションと事前の尿道形成 》                                                 
 十分な厚さの皮弁を使用する尿道のプレラミネーションを伴う、二期的Phalloplastyは、遊離前腕皮弁(RFFF)を含む53,54) 骨付き遊離前腕皮弁36)、骨血管茎つき遊離腓骨皮弁(OCFF)44)、前外側大腿皮弁(ALTF)55)。プレラミネートのOCFF  Phalloplasty では、瘻孔率15~22%、尿道狭窄率32%も含まれる54)。同時に、プレラミネートOCFFによる皮弁不全率の増加と関連している45)。事前形成もPhalloplastyに活用されいる。上腕外側に新生尿道を形成し前腕へ組み込んだRFFFは、完全に血管形成された尿道に沿い、勃起用プロステーシスが組み込めるものである40)


《 局所組織皮弁 》                                                 
 尿道屈曲部、尿道球部の再構築のために、膣前方をベースにした皮弁、小陰唇皮弁、尿道板が別々56)または複合的57)に使われて、新生児の尿道や尿道固定部再建が行われている56)


《 亀頭形成 》                                                 
 現在、亀頭再建は審美的に、また正常に見える陰茎を手に入れたい患者の希望の重要な部分となっている。Hortonの提案では、冠状隆起部の円周方向に上皮部分の皮膚皮弁を挙上し巻きつけ、皮弁の自由端を自身の基部に縫合し盛り上がりを形成する方法を報告している。次いで剥き出しの領域を植皮片で覆う58)。 分層植皮による形成は、全層植皮よりも冠状溝が自然に見える59)。 これは冠状隆起および溝形成において最良の結果が得られる技法といえる(図6)59,60)

 


《 合併症 》
 Phalloplastyはユニークな機能と形の再建を求められており、形成外科医らに最も複雑とされる再建手術の1つである。これに加えた事実として、再建が重要ながら使える材料はベストではなく、この課題には感情的な要因も重なる。多数の合併症を伴うが、何ら不思議なことではない。皮弁の生存と外観は、再建の最低限の必要条件だが、最終な成否を決定するのは機能、それも排尿と性的な機能である。
 Phalloplastyの結果に過大な期待をさせないよう、カウンセリングと患者への理解は重要である。が失敗した場合、殆どの症例で患者は局所に以前より大きな瘢痕、傷を残し、それ以降の再建に向けた希望は限られたものになる。代替手段は救命的な緊急処置に過ぎず、最初に選択した方法から期待される結果とは程遠いものになる。このことも、医師がPhalloplastyの同意を得る前に、強調して患者と話し合うポイントである。


= 皮弁失敗 =
 遊離皮弁における皮弁生着率は、多くの症例で徐々に98%に増えてきているが、有茎皮弁では殆ど皮弁損失を起こさない。それでも、部分的な喪失でさえインプラントによるもの、尿道瘻孔、感染症および有茎皮弁血栓などが、皮弁全喪失に繋がることがある。一般的に実施された報告の中では、前腕橈骨側、上腕外側、広背筋皮弁は皮弁生存率が高い23,41,47)。骨血管茎つき遊離腓骨皮弁(OCFF)による形成は、他の皮弁と比べて一般的に全皮弁および皮弁部分故障率が頻出する27,28,44,61,62)。 有茎皮弁の中でも前外側大腿皮弁(ALT)は、ドナー採取部分が隠れること、高い生着率とMicrosurgeryが不要という利点がある。


= 尿道瘻孔 =
 恥骨上部腹部皮弁は55%もの高い尿道瘻孔発生率がある9)。遊離橈骨皮弁(RFFF)によるPhalloplastyで報告された尿道瘻孔発生率は22~68% (図7)であった25,27)。これらの瘻孔は、尿道吻合が近位にあるほど頻発する25)。RFFFの尿道形成術に局所皮弁を使用した場合、SRSでは尿道瘻孔の減少率が報告されている57)。同様の統計は、子宮全摘出後統計にも当てはまる34,57)。プレラミネート骨血管茎つき遊離腓骨皮弁(OCFF)のPhalloplastyにおける尿道瘻孔発生率は、15~22%となっている44,45)。驚くべきことだが、有茎皮弁であるALTおよび有茎鼡径皮弁で報告された尿道瘻孔発生率は10%以下である20,62)

 


= 尿道狭窄 =
 恥骨上腹部皮弁は尿道狭窄が最も高く64%となっている9)。遊離橈骨皮弁(RFFF)またはプレラミネートされた骨血管柄つき遊離腓骨皮弁(OCFF)の狭窄率は17~31%の幅があり、OCFF関連ではより高い頻度になっている24,25,44)。尿道瘻孔発生率と同様に尿道狭窄の発生率は、RFFF尿道形成術61)(2.56%)のみ、または有茎鼡径皮弁62)(4.15%)によるPhalloplastyよりはずずっと低い。平均的な狭窄の長さは、通常で約3.5cmとなっている63)。狭窄部位には尿道口、陰茎尿道、吻合部(最も一般的)、固定部や複数部位が含まれる。陰茎再建後の尿道狭窄治療で使われる、様々なタイプの尿道形成術には以下がある:
開放切開術、Heineke-Mikulicz術、切除及び一次吻合、遊離皮弁尿道形成、有茎皮弁尿道形成、二期的尿道形成および子宮摘出術と尿道再建がある63)。内視鏡的切開は、尿道狭窄(<3cm)が短い場合に推奨されている64)。これらの治療後の、厳密な再発率は61.9%である63)


= 補強材関連合併症 =
 尿道を有した十分な外見、そして性交を可能にする、十分な硬さの陰茎を形成することは困難を極めた。再建陰茎の硬さは、外的な補強材の使用、また自己組織からの補強材移植、そして半硬質または膨張可能なプロステーシスを移植することによって可能となる。永久的な硬さを保つための自己組織としては、肋軟骨移植片および軟骨移植片が含まれ、しばし半硬質状態のため再吸収、骨折、突出や感染など複雑な状態に困惑を極める。またプロステ-シスは高い突出率そして感染率を伴ってくる(図8)。形成時に自己組織由来の補強材を挿入することが多い、再建陰茎にインプラントを挿入された者のほぼ30%にインプラント関連合併症が見られる。筆者は1995年以降、補強材として9~15cmの肋骨軟骨移植をしており、自家移植補強材由来関連では目立った合併症がない(図9)25)。血管柄つき皮弁による遊離腓骨皮弁(OCFF)でPhalloplastyを行った患者では、血管柄つき皮弁による遊離橈骨皮弁(RFFF)でPhalloplastyを行った患者よりも、優れた性交体験を有している54)。 陰茎の感染、デバイス障害では高いインプラント除去率をもたらし、そこから回復し知覚を再獲得した後に、二次的に移植可能なプロステーシスの挿入が推奨される24,28)
 人工補強材が露出した場合インプラントを除去する必要はあるが、結果は殆ど変わらない。通常の場合、補強材はPhalloplasty時に留置される。経験を積んだ筆者らは1995年以降、補強材として9~11cmの肋軟骨を自家移植に使用しているが、目だった合併症は報告されていない(図9)25)。骨血管柄つき皮弁によるPhalloplasty 患者では、OCRFF(遊離前腕皮弁)よりもOCFF(遊離腓骨皮弁)患者の方が性交では良い成績を収めている54)。陰茎インプラントは、再建陰茎が知覚を獲得したのち、二期的に留置することが推奨される65)

= 重大な合併症予防 =
 Phalloplasty は決して均質な患者集団ではなく、その手順も明確な適応がない。使用する皮弁ですら、皮弁生着率と機能に基づくだけの選択はできない。また、SRSまたは損失した者のために行う手術でも、前腕からの皮弁採取部は目立つため、トランスジェンダー個々にとってはスティグマとなることがあり、それが皮弁の選択に影響を与える可能性もある。この困難な再建を外科医が行うにあたり、専門家との訓練を重ね特殊技術を獲得するが、これは殆どの患者に適応できるものである。前腕皮弁は、解剖学的な信頼性の高さ、十分な口径の血管と柔軟な感覚を得る血管柄つき皮膚であり、適応となる治療では最初に選択肢に挙がる皮弁である。本法はPhalloplastyのゴールドスタンダードであり、特定の状況では多彩な変更も可能である。この技術の皮弁生着率は良好だが、毛が生えていることもあり狭窄と瘻孔.はよくあることだ。採取部位が目立つことは深刻な欠点である。幅広い用途を有するいま一つの選択肢は、有茎前外側大腿皮弁(ALT)である。十分な皮膚が確保でき、皮弁採取部位は目立たず、採取部位に比べれば小さな皮弁であるため、皮弁による損失は少ない。同部位は通常厚みを持つが、脂肪吸引を用いることで薄くすることも可能だ。 知覚回復は、前腕皮弁に比べるとやや劣る。
 繰り返す尿道狭窄と尿道瘻孔の頻度は、複数の要因が関連する。第一に、皮弁の尿道部分は有茎部から遠く、比較的血流が少ない。 第二に、皮弁全体の寸法のため尿道部の長さが制限されやすく、張力に乏しく尿道吻合には不十分なことがある。最後に、これら皮弁の大部分は毛髪含有部分から採取するため、尿道内で成長した毛が尿量を妨害することによる合併症が起こる。いかにこれらを予防するかについては、選択する技術に左右される。しかしそれを一般化することは難しい。また、一般的には、二期的手術のほうが一期的手術よりも合併症の割合が少ない。事例を選び、全層植皮でプレラミネートした尿道であれば、合併症を起こす確率は有意に低下する。


 

= 結 論 =
 Hageらは「Phalloplasty技術の発展は、形成外科の進化と平行する」と指摘した66)。実用性と人気の面で、筒状有茎皮弁の後には遊離前腕皮弁(RFFF)が標準的Phalloplastyの方法として確立された(図10)。骨血管柄つきの前腕皮弁と腓骨皮弁には多くの有望な面がある。主なものは、一つの皮弁で「全ては一つのために、一つは全てのために」と機能が補えることである。
 尿道合併症の発生率を低下させるため、プレラミネートおよび事前製作が導入されている。勃起を補助する補綴物が次々と導入されている。にも関わらず以下の事実がある; 遊離前腕皮弁(RFFF)のデザインは時の試練を経てなお今も、一期的な全陰茎再建法の潜在的な方法を示してくれる。
 穿通枝皮弁の登場により、多くの従来型離皮弁で検討もされてなかった部位による、再建手術への挑戦が行われている。同様に、知覚つきでやや小柄のALT皮弁は、これまでのRFFFにとって代わり、陰茎再建の第一選択になろうとしている。トランプカードは日々の服に隠れる皮弁採取部であり、マイクロサージャリーの知識は不要だ(図11)。Hageらによれば、陰茎の知覚は期待できず以下を主張した:およそどのような補綴物も使用できない。その結果Phalloplastyの適応が殆どない技術だ67)。しかし物事は変化しており、補強材の問題も解決され、有茎ALT皮弁は実用的な解決策であることが示されている17,18,20)