手術室から出た術直後は、図のように心電図モニターや酸素飽和度を計測する測定器が指に装着されているなど、身体に繋がれているチューブ・ドレーン類が多い。酸素は術後数時間、又は麻酔から醒めた時点で使用していないこともあり、患者個々の状態で変わる。低酸素状態は、組織に酸素がいきわたらない状態、術後の創傷治癒・体力回復にも影響がでる。
手術は患者の身体に大きな侵襲を加える操作であり、患者は術前から術中にかけて大きな身体的・精神的ストレスにさらされる。術後はまず、国内外ともリカバリールームで麻酔からの覚醒や循環動態など、術中の急激な身体状況の変化が一応安定したことを確認する。その後、病棟へ戻ることになるが状態が完全に安定しているわけではない。病棟看護師の役割は、患者の身体的・精神状態の観察や、悪くなりそうな変化の早期発見に努めることで、患者が重篤な状態に陥る前に医師と連携を取ることである。海外でのSRSであれば言葉も不自由だ。患者のニーズを伝える言葉はある程度限られている。事前に下調べをしていくことも大切。アテンドや通訳を使う場合は、小さなことでも漏らさず、自分の状態を伝えるようコミュニケーションをとっていくと良い関わりができる。
一番状態が不安定な時期は、リカバリールーム(多くのSRS当事者は術後は夜間をそこで過ごす)で看護師が常駐して様子観察をしてくれている。術後合併症も、時期によって発生する問題の重症度や症状も異なる。ここでは、病棟に戻ってきてから起こりうる合併症について紹介をする。また、それが起こる原因を知ることで心構えをしておこう。
1)合併症
①出血(Bleeding) 原因はさまざま。単純に縫合が甘い、糸の脱落、毛細血管からの出血、ドレーンの刺激による出血、血液が固まりにくい、周辺組織が弱い、等。 これは麻酔にも原因がある。 麻酔で交感神経が遮断されることで、血管が広がる。熱放散が高くなり体温が下がると、血液を固める血小板が減る。ここで血栓の形成不全・凝固障害がおこり「出血しやすく」なる。手術後24時間が最も出血が起こりやすい。危険なゴールデンタイムを過ぎてから再出血する場合は、感染による創離開が原因のことが多い。ガーゼなど傷の被覆資材に血液が付着して発見されて、出血源が表面で少量であれば圧迫止血での対処も可能。
②血栓症(thrombosis)
血栓は血液の凝固や、血小板凝集などにより起こる。全身あらゆるところに発生するが、肺に血栓が飛ぶと肺塞栓(pulmonary embolism)となる。特に骨盤内臓器を触るFTMの術後等では、長期臥床になりがちである。また肥満、女性ホルモン療法、心疾患既往のある人も血栓のリスク因子である。長期臥床後の初回歩行では特に注意が必要で、血流がうっ滞した下肢にできた血栓が、歩行による循環動態の変動で肺に到達して肺塞栓を起こすと、致死的な呼吸不全を起こす。自分でできる予防対策としては…
・ベット上安静の間は、弾性ストッキングを巻いて、膝の屈曲や足首の回旋、足趾を動かす。術後のDVT予防にフットポンプを活用する施設もある。・早期離床。許可前でも、ベット上で上体を起こす時間を増やしたり体位変換を積極的に行う。
③肺炎 ( pneumonia) 無気肺(ateletasis)
通常、全身麻酔で挿管を行う人は、術前から禁飲食になっているが、挿管に伴う嘔吐から、誤嚥性肺炎が起こる可能性もある。また全身麻酔による気管内挿管を受けると、若い人でも起こることがある。リスクとしては喫煙、長時間の手術、疼痛コントロール不十分なため呼吸運動が低下し痰を出す力が弱くなる、などがある。予防対策としては
○歩行許可が出るまでの間にも、ベット上では身体を起こしているように努める ○意識して深呼吸をする。痰が溜まっているようであれば、積極的に痰を出す ○食後のうがいはもちろん、院内は湿度が低くなりがち、食事以外でもうがいを意識して.おこなう
④縫合不全(anastomotic leakage )
縫合不全とは、手術の時に縫い合わせた「縫合」部位が、何らかの原因で創傷治癒が行われずに、創の一部が開いたり、傷の深部まで貫通して開いた状態。縫合した傷の感染(発赤、痒み痛み、滲出液)から傷が開くこともある。手術後に傷を縫合すると、人間の体は48~72時間で傷の部位を上皮化させる。上皮化は傷の上に薄皮1枚が被ったような状態だが、外界との交通はない。この期間を過ぎれば、本来はシャワーを浴びても問題はないが、ドレーン類がついていたり、患者自身の不安もあることから、多くは抜糸後の入浴になっている。
縫合不全へ移行するリスクの高い創感染
縫合不全が起こるリスクは、創傷治癒を遅らせる以下の全身・局所的原因がある。
全身の原因:糖尿病、肥満、貧血、栄養状態の低下、喫煙 等
局所原因:感染(剃毛によって傷ついた皮膚からの感染も高い)。縫合の緊張が強いことによる循環不全、など。また、縫合糸のクォリィや縫合方法、切開方法、電気メスによる切開なども、縫合不全のリスクになる
縫合不全による、腹部に作られた形成尿道の瘻孔(右図)
肥満改善や喫煙、など自分でできる予防策は他の合併症対策にもつながる。特にFTMの尿道形成で縫合不全が起きた場合、尿道瘻孔からの尿もれは、当人のQOLに深刻なダメージを与える。立位 での排尿ができないばかりでなく、座位においても尿の方向性が定まらない。排尿の都度、不便な思いをすることになる。そして、FTMの形成尿道形成後の合併症で瘻孔、狭窄は高い頻度で発生している。他にも、術後の合併症は多様な種類を持っている。メジャーな合併症を集めたが、その程度は個々の身体状治療や、行われる治療内容によっても変わってくる。術前から術後、どのような流れで自分が治療を受けるのか。イメージをすることが不安を和らげる方法のひとつである。そして、どのような手術であっても、呼吸・循環動態が安定している限り、可能な限り早期の離床を進めることが、術後管理では優先されることである。
⑤排尿困難
術後の排尿障害は、主に手術操作、心因性等が原因で発生する。 FTMの子宮・卵巣摘出術は、術野近くを膀胱・尿道を支配する神経が走行し、かつ手術対象臓器を膀胱が隣接している。切断に至らなくても、手術器具が触れるなど何らかの刺激によって、一時的に排尿をコントロールする神経が正常に働かなくこともある。骨盤神経の切断以外に、膀胱・尿管の支柱となる靭帯も切断するため、さらに排尿障害を起こしやすい。手術後、膀胱留置カテーテルを抜去した直後は排尿がみられても、数日後に症状がでる場合。もしくは排尿量が少なくそのまま気が付かないこともある。慢性的に残尿がある状態は、尿路感染症のリスクが高くなる。FTMでは、気が付かないペースで形成尿道の狭窄が進み発症することもある。
再度の留置で様子観察をして、軽快することもある。一つの方法としては、形成した皮膚由来の尿道は縮むという前提で、MTFが行うように尿道ダイレーションを継続していく。予防は最善の治療となる。
2)早期離床の重要性
術後、患者の体位や体位変換、早期離床は、安楽や術後合併症予防にかかわる大 事なことである。 術直後は、手術室から近いリカバリールームなどで、全身の観察が し易いあおむけでベットに寝ている。しかし、循環動態が安定すれば、手術当日から 上体を起こして置いたほうが、呼吸機能にとって有効である。もちろん、入っている ドレーンなどの管類が抜けないように注意をしながら、左右へ体位変換を促し、褥瘡 や無気肺、筋肉痛等を予防することができる。Phalloplastyの第一段階、第二段階で は数日間のベット上安静を指示される。股間や尿道を作った部位がすれたり、大腿が 当たらないように注意をしながら、からだで他の部位は少しで動かしておきたい。
≪ 早期離床の利点 ≫
・肺機能の改善と肺の合併症予防
・筋肉及び骨・関節の廃用性萎縮予防
・腸蠕動の促進と腸管麻痺予防
・回復意識の促進
点滴の漏れを見逃さない
点滴のルートを取る(針を刺す)時、日本人看護師の多くは前腕または上腕で血管を探す。漏れにくい、手を使いやすくて、真っすぐで太い血管を探そうとすれば、自然とそうなる。タイの2病院で点滴をされたとき、いずれも手背で点滴の針を刺された。よく手を使って動く私のような患者では、すぐに点滴が漏れて刺し直しをすることになる。
あまり前腕には刺したがらない(技術の問題?)。点滴の針は感染予防のため、漏れがなくても、最大3日(72時間)で別の針と入れ替えをする必要がある。上2枚と、下の写真では大きく違う部分がある。
上2枚はタイの病院で行われた固定で、針先がテープで隠れてまったく見えない。点滴の漏れは「針先が赤くなる」と典型的な症状ばかりではない。相当量が漏れまで気づかないこともある。針先が見えている方がごくわずかな漏れも発見しやすいので、透明なフィルムで保護する。
もう一つ、タイの(その時期の看護師だけかもしれないが)看護師はー尿量、点滴の滴下調整、点滴の刺入部、術直後からの傷の状態、ドレーン排液etc…看護師がしなければいけない術後の観察をほぼしていない。術後の水分出納観察は、基本的な術後管理なのだが。点滴に限っていうと、私はこのテープを固定できるギリギリまで剥がして自分で観察をする。早く漏れる体質なので、漏れかけの時に声をかけて入れ替えをして貰った。医療体制が異なる海外、ご自身でも体の管理に注意を払ってください。