治療方針
術後のケア
1)ダイレーション<Dilation for FTM/MTF>
①MTFのダイレーション
MTFが造膣後に行うダイレーション。陰茎皮膚またはS状結腸粘膜反転法であればそのサイズが膣、のサイズになる。SRS術後から病院でダイレーション指導が必ず行われるので、簡単にご紹介。基本として、元々無い場所へ別の組織で膣を作るので、縮んでくる。形成した膣は、一定の深さと太さ(チンコサイズ)を維持するためには、日々のケアが必要になる。各病院でプログラムを組んでいる。抜糸後の術後7日程度から開始する。
ダイレイーターも各種メーカーから販売されていて、色とりどり。太さも豊富だが、アメリカ製某社のダイレーターはA~Fの6段階で、太さ、長さのラインナップが揃っている。細いAサイズは太さ15mm長さ88mm。最終のFサイズでは太さ38mm長さ151mだが、それまでの間太さが4mm刻みで増えている。これは太すぎるのではなかろうか。FTMの形成尿道を太くした際は、2Frずつ太さを上げていくのだがmm換算で約0.6mm。皮膚で作った尿道を、この程度の太さずつ拡張するのも一苦労。繊細な知覚を伴う形成膣の拡張で、4mmも一気に広げるのは相当の苦痛を伴う。
患者本位で考えると、4mmもの太さを一気に拡張するのではない方法。例えば、アダルトグッズにある「アナル拡張器」のように、自己調整で太くしていく方法はできないのだろうか。痛みに耐えて拡張をするのは、ある意味「産みの苦しみかもしれないが、そろそろダイレーション革命をしてもいいのではないか。 ダイレーションの消耗品として、KYゼリー(タイではQ-Cゼリーが販売されていた)の準備が必須。Amazonでも購入できるが、消耗品ながら萎縮予防を考慮すると、生涯継続したときのコストは結構かかる。海外でまとめ買いするか、限定的にセックス用ゼリーを使う方法もある。目的は『自分専用の器具でコンドームを被せて、自分のためだけに使う』のだから、ゲイショップで手に入る大容量のローションでコストダウンを図ることも検討していいだろう。もちろん、セックスで使う場合は、ローションの成分とコンドームの素材で相性が悪いものもあるので、それぞれのクォリティは考慮されてしかるべきだ。
②FTMのダイレーション
FTMの形成尿道。MTFのSRSと最大の違いは尿道にある。MTFは陰茎を切断すると、そこから尿道になる。外尿道口の形成不全による尿の出方に支障が残る当事者もいるが、苦痛を伴うことはない。FTMの場合は、粘膜由来の尿道を、陰茎の長さだけ新たに作らなければいけない。通常、ミニペニス(Metoidioplasty)までは粘膜由来の尿道なので、伸縮性もある。退院してすぐ、または術後数年かけて進行し最終的には全狭窄により陰茎切断など、早発性・遅発性の尿道狭窄が確認されている。
中でもハイリスクなのは、新旧の尿道吻合部(○印)だ。皮膚と粘膜、という組織の解剖としては異なるもの同士であり、傷の治癒速度も異なる。角度がつく場所でストレスも掛かりやすい。また、吻合した皮膚が治癒して瘢痕化が強い場合はそこが縮んで若干の狭窄は起こる。その程度によっては、狭窄が数ヶ月、数年単位で進行する可能性はある。皮膚で作ったモノが縮まないようにするためには、同じく皮膚で作った膣ケアをMTFがするように、ダイレーションすれば良い。シンプルな答えだが、MTFの退院前指導が必須なのに対して、FTMの尿道ダイレーションを丁寧にかつ、根拠を説明しているとは言えない。患者指導は看護師の仕事だが、このような解剖生理学的経年変化と、当事者の感覚がわからないと、指導をしましょう、に結びつかない。
ミニペニスやPhalloplastyをした後、一時的ダイレーション指導をするところもあるようだが、自発的に太めのカテーテルを留置することはお薦めしたい。予防は最大の治療である。