尿道狭窄に対し、舌粘膜植皮と口腔粘膜植皮によって尿道形成を行った比較研究

原著論文 こちら

A comparative study of lingual mucosal graft urethroplasty with buccal mucosal graft
urethroplasty in urethral stricture disease
Urology Annals2016年4月 (Online full text at www.urologyannals.com)
Department of Urology, Postgraduate Institute of Medical Education and Research, Kolkata, West Bengal, India

Dilip Kumar Pal, Depak Kumar Gupta, Bastab Ghosh, Malay Kumar Bera

[ 概要 ]
目的:比較的長く末梢部までの尿道狭窄を有する患者において、舌粘膜と口腔粘膜で尿道植皮をおこなった結果を比較した前向き研究。

対象と方法: グループⅠ 口腔粘膜移植による尿道形成を行った30人の患者・
グループⅡ 3cm以上と、比較的広範囲の尿道形成を舌粘膜移植によっておこなった30人・
2013年2月から2014年9月(約1年半)の間、尿道末梢部の不全狭窄を起こした患者において、Barbagli’s術による口腔粘膜植皮で尿道形成を一期的に行った。全ての患者は術前に、口腔内検査を含む、構造上の評価を受けた。

結果: 尿道形成を受けた2グループの結果は、術後AUA症状スコア(P=0.83)、手術時間(P=0.302)、術中失血(P=0.708)と、Qmaxと(P=0.63)と術後の入院期間(P=0.83)の間で有意差(P>0.05)があるものの、発声不明瞭な合併症状はグループⅠではなjく、グループⅡ群で見られた。長期合併症では、唾液分泌異常、口の閉鎖不全、移植部位の持続的な痛み、口唇周囲の痺れがグループⅠにだけ見られた。

結論:舌粘膜植皮による尿道形成は植皮採取部へ最小限の影響で、口腔粘膜植皮による尿道形成の代替としても同等の結果をもたらすものである。

Key Words:BMGU/口腔粘膜皮弁での尿道形成、LMG/舌粘膜皮弁での尿道形成、尿道狭窄 

緒言
インドにおいて尿道狭窄は比較的頻繁に遭遇する泌尿器科的問題で、慢性・再発性の経過管理では大きな課題がある。尿道形成における理想的な移植片の部位は、現在まで様々なものが考案されている。 長年、陰茎皮膚は尿道形成の代替品としては最も汎用された移植片だが、今日では口腔粘膜がそれに変わり主流となってきている1)

 インド東部の人々は、キンマや噛みタバコの習慣がある。これらの人々の口腔粘膜はしばし病的な状態となており、尿道の代用としては不適切である。これまで、そのような前向き比較研究はこの地域では実施されていない。 筆者らは、尿道形成のグラフト用として口腔粘膜尿道形成(BMGU)と舌粘膜を利用した結果を比較する研究を開始した。筆者らの調査における尿道狭窄の主な原因として、乾燥性閉塞性亀頭炎(BXO)や硬化性萎縮性苔癬であった。

対象と方法
 審査委員会での検証後、同意を得られた尿道狭窄の患者60人(BMGU 30人とLMGU30人)、年齢18歳から58歳で末梢で2012年8月から2014年2月まで研究を行った。遊離口腔粘膜植皮による一期的尿道形成の後、少なくとも術後半年はフォローアップをおこなっている。不適切な状態の口腔粘膜をもつ患者の場合はBMGUによる手術を除外し、代わりに舌粘膜植皮片を使うようにした。
除外基準は狭窄の長さ3cm以下で、外尿道口狭窄または舟状窩部狭窄、口腔神経障害、口腔悪性腫瘍既往歴または、尿道の悪性腫瘍、BPE(50歳以上の患者ではエコー上やデジタル直腸診で)や少なくとも術後6ヶ月のフォローが行われていない患者など、複雑な狭窄では多段階にわたる尿道形成が必要となる。

 全ての患者は病歴、身体検査、尿流速計、尿管鏡検査、および逆行または排尿尿道造影(図2aと5a)など詳細な術前検査と、AUA評価(訳注:IPSSによる評価で良いだろう)をした。全患者で口腔の初期評価時の検査をしている。 

 成功の目安はQmax(最大尿流量率)修正値15ml/s以上の自発的排尿で、排尿後も残尿ないことを基準とした。Qmax15ml/s以上を得られたこれらの例には、対処可能な範囲でのステント留置や内視鏡的拡張術などの軽度な修正を行ったその後にQmax15ml/s以上得られたグループも含む。
 臨床評価は植皮採取部位の合併症、口腔の痛みの有無、開口や発声での違和、感覚神経障害、顔面奇形、唾液分泌への影響なども含む。
 
方法(Urethral mobilization尿道移植)
 全例で挿管による全身麻酔下での手術を行っている。会陰からのアプローチで局部の移植をし終えた。陰茎背側の上から尿道切開を行い、正常尿道の周囲1cm程度までに拡張をした。
 = 植皮の採取 =
 縫合部分は牽引した舌尖を撮影している。この皮弁では、舌の裏面外側壁からの1.5cm幅で後方に向ってデザインのマーキングをしている。植皮近位に2箇所の縫合が見える。必要であれば正中線を横断する舌の両サイドでぞれぞれ個別に、全層粘膜植皮を直角にデザインをして、採取している。採取した植皮片は生理食塩水に浸した。全ての粘膜下外膜組織を除去しており、従来の文献で指摘されるように、脂肪は含めていない2,3)。長い植皮片が必要な場合は、舌の対側からも採取をしている(図Ⅰaとb)。植皮片は尿道の形態に応じて調整をしている。同様にBMG(口腔粘膜植皮片)とする頬内側頬内側の粘膜表面は、植皮片長さに必要なマーキングを行っている(図3aとb)。採取時に植皮片の止血を確実にするため、アドレナリン含有キシロカイン溶液を採取部に投与している。縫合も含めて、ステンセン管(耳下腺管)の損傷を避けるように口腔粘膜内側から植皮片の採取を行った。

必要とする植皮片が長い、長く取りたい場合は、反対側の頬からも採取している(図4aとb)。植皮片はオペ用鋏で脂肪除去し、尿道の長さに応じて形成した(図6aとb)。文献4,5)と同様に、両事例とも狭窄切開部へ16Frを留置しその上側となる白膜側へ採取片を伸展し、固定して被覆した。 

 = 術後管理とフォロー =
 術後5日間、抗生剤(セフトリアキソン、アミカシン、メトロニダゾール)投与し、その後は経口薬シプロフロキサン500mgとオルニダゾール200mgに切り替えた。術後2日間は経静脈的にジクロフェナクナトリウム75mg投与し、その後は経口投与へ切りえ変えた。患者には1日3回、ポピドンヨードによるうがいの継続を指導した。術後4日以降まで会陰創部は開放していた。会陰創部は抜糸の必要がない、吸収性縫合糸によって閉創した。

経口での流動食は術後1日目から、術後2日目からは普通食を許可している。異常がある場合を除いて通常患者は、術後7日で退院している。術後3週間で尿道造影を行い、溢出が認められなければ留置カテーテルを除去している。溢出があれば、さらに2週間カテーテルを留置した。患者は術後3ヶ月と6ヶ月に、尿流速計でフォローをしている。尿流速計で尿流出に異常があれば、尿道造影を行った。
全患者に、ささいな合併症でも電話連絡や泌尿器科外来での確認をするよう指導した。

 結果
 2013年2月から2014年9月の間、遊離口腔粘膜植皮片による尿道形成術をした患者60人の前向き調査で(BMG30人、LMG30人)は、以下の項目に注目をしたい。文献参照で狭窄原因の大半はBMGとLMG使用した両グループとも乾燥性閉塞性亀頭炎(BXO)であり、半分以上の患者はBXOが原因で狭窄を起こしていた。他には図7aや表1のような特発性、感染、外傷および医原性が原因となる。植皮をした患者それぞれBMG70%、LMG73.3%でよく見られるのが。全体の尿道狭窄である。図7bに示すように他は陰茎部や球部尿道狭窄のいずれかを有していた。

 術中測定によると、BMGグループ患者(図5a)の狭窄長は平均して9.2cm(3.8~14.8cm)、LMGグループ(図2a)患者での狭窄長は平均して9.6cm(3.5~15.5cm)であった。

術中の口腔/舌粘膜植皮片長を測定している。粘膜の長さは平均してBMGによる尿道形成(1グループ)で10.23cm、対するLMGによる尿道形成(2グループ)は10.10cmであった。

 術後フォローはグループ1で15.2ヶ月(6~19ヶ月。中央値16.3ヶ月)、グループ2で14.1ヶ月(7~19ヶ月。中央値14.5ヶ月)行った。 

 皮弁採取時間と失血、手術時間についての術中パラメーター記録がある。手術時間を見ると、BMGによる尿道形成(グループ1)を受けた群は平均175.85分(植皮片採取38分)と、LMGによる尿道形成を(グループ2)を受けた群の平均手術時間161.25分(植皮片採取25分)よりわずかに手術時間が長い。術中失血はBMGによる尿道形成(グループ1)群が180mlで、LMGによる尿道形成を(グループ2)群の176.5mlよりやや多い。これらの術中パラメーターから、入院期間についてはグループ1で平均5.9日(5~9日)、グループ2で平均6.5日(6~8日)と統計的に有意差がみられない(P>0.05)。

 Qmax平均値は両グループとも、術後に改善がみられた。グループ1は術後3ヶ月でQmax平均8.6ml/分から29.56ml/分に向上(18.64ml/分の改善)、グループ2ではQmax平均7.43ml/分から30.29ml/分に向上(21.40ml/分の改善)した。グループ内では、平均Qmaxが有意に改善した(P<0.001)。グループ間の結果でQmaxの改善に差が有ることは、統計的な有意差とは認められない(P>0.05)。

 それぞれAUAスコア(訳注:IPSSー既出)がグループ1で平均21,23から5.3(平均16.1減)へ、グループ2では平均20.56から5.37(平均15.3減)へ減少した。グループ内では、症状スコアが有意に減少していた(P<0.013)。2つのグループ間で、症状スコアの減少の違いに有意差は見られなかった(P>0.05)表2。

 尿道形成術後3週間から、カテーテル関連研究を行った。グループ1の患者6名とグループ2の患者5名に術後造影で溢出が見られたことから、更に2週間のカテーテル留置を延長し管理していた。再度の造影検査でリークが見られなかったことから、排尿試験を行った。 

 グループ1の患者3名は吻合部での狭窄が発生した(1人は遠位吻合部で、2人は近位吻合部で)、うち1人は尿道拡張で管理され、ほか2人は内尿道切開術を必要とした。患者4名に外尿道口狭窄が起こり3名はセルフケアを行い1名は尿道切開術を行った。グループ2の患者2名で吻合部狭窄が起こった。どちらの患者も内尿道切開術で対処した。外尿道狭窄を起こした患者4名では、3名いは尿道口切開をすることになり、薄い癒着の起こった1名の患者では、金属製デバイスによるセルフケア(ダイレーションか)が行われた。

 術後3ヶ月、グループ1の患者2名とグループ2の患者3名では尿流量も不十分(Qmax<15ml/分)にとどまる失敗例がある。これら全ての患者が創感染、術後早期における植皮片壊死がみられた。術後6ヶ月で更に3名の患者(グループ1と2で2名ずつ※統計間違いか?)は不十分な尿流量(Qmax<15ml/分)が確認された。これら患者のなかで、各グループ2名の患者は術後早期に創部皮下血腫を起こしている。他は失敗例の原因を見つけることはできなかった。全体的に、植皮部位毎の尿道形成の成功率はBMGで86%、LMGで83%であった。術後半年の尿道造影検査では、両群とも十分な尿道口径を確認できた(図2b、5b)。

 = 植皮採取部位の評価 =
 術中に採取した口腔/舌粘膜長を計測している。グループ1のBMGによる尿道形成では平均して10.23cm(5.8~15.9cm)対するグループ2のLMGによる尿道形成では10.10cm(4.8~16.2cm)である。
舌粘膜で採取した植皮片の幅は、わずかに頬粘膜片よりも短い。
 
 グループ1の患者96.6%とグループ2の患者90%で、術後1日目に採取部位の痛みを訴えたが、双方とも術後5~6日で完全に収まった。グループ1の患者3名は術後3ヶ月まで痛みが持続した。

 グループ2の患者11名には、採取した植皮片の長さに比例して、舌運動の困難さや発声が不明瞭になる様子がみられた。このような合併症は、痛みと共に改善した。患者の大半は術後4,5日の時点で会話では、舌が正常に動いている。退院時も出血、血腫または感染症は見られなかった。

 晩期合併症(術後3ヶ月)としてグループ1にだけ、植皮採取部位の持続的な痛み、口周囲の痺れ、口の気密性低下、唾液分泌異常、頬の瘢痕化がみられた(表3)。

考察
 ターナー・ワーウィックによる、尿道は尿道の最善の代替部位である6)。しかしこれが可能なのは、2cm以下の尿道が切除されend-to-endの吻合が行われた場合のみである。
 陰部周囲の皮膚を尿道に使用した場合では陰茎・亀頭のねじれ、皮下奇形および尿道索を起こす恐れがある。そのため遊離外性器組織片は尿道形成のため使用されることがある。臨床結果からも、口腔粘膜植皮片は最適な組織であると考えられる7)。尿道置換術分野の進歩により、尿道形成術は改善し続けている。

 舌腹側外壁は、舌の大きさにもよるが、安定して最大7~8cm長さの粘膜管を供給できる。口腔粘膜と舌粘膜は発生学的には同一で、採取の容易さ、良好な免疫学的性質(感染抵抗性の強さ)を有している。また移植片の血行再建からみても、組織の特徴(厚い上皮、豊富な弾性繊維、薄い粘膜固有層、豊富な血管新生)は吸収・吻合に有利な点が多い2)

 舌粘膜植皮は採取が容易(口から舌全体を引き出すことができる)で、移植片としても連続した十分な長さを擁している。これは開口が難しく頬粘膜の採取に苦労する患者では、特に有利といえる。舌粘膜外側面は特に機能的特徴もないため、舌組織のほぼ半分は植皮片として使用することができるし、舌がんのように機能的な制限も残らない8)

 筆者らの研究でLMGとBMGによる尿道形成で成功率を比較したところ、術後の入院期間、失血、があり、術後3ヶ月と6ヶ月のQmax、そして術後AUAスコアの平均が要因となる。これらは上記2グループ間のパラメーターで僅かな違いを有している(全てP>0.05)。これらの知見は、クマーら9)の先行研究と同様の結果である。

 LMGグループで筆者らは、表3で示すような植皮部位の持続疼痛、口周囲の痺れ、開口困難、偏位(顎の)または陥没を経験していない。舌から植皮片を採取する患者は、舌挺出困難と発語不明瞭が7日程度続いた。これはBarbagliらによって行われた先行研究の結果と同様である。SongらSimonatoらの報告では最小限、または合併症が全く見られなかったと報告している12,13,2)。これらの知見は表4にまとめた。

結語
 口腔粘膜と舌粘膜は尿道形成の置換組織として同様に優れいているものの、口腔粘膜植皮に合併症がないわけではない。舌粘膜は長い移植片を提供し、採取も容易である。また長期合併症もなく早期合併症も最小限で済む。舌粘膜はそのもので置換したり、既に行われた頬粘膜での尿道形成手順を最小限の合併症で補足することができる。従って舌粘膜は 最小限の合併症によって、既成の頬粘膜による形成尿道を補完するためにも使うことができる。