5、陰茎形成(Phalloplasty)の皮弁

々無い陰茎を形成するために、体のどこかの部位を使う必要がある。その部位を「皮弁」と称する。 皮弁は股間と近い場所であれば、血管や神経を切断することなく形を整えてしかるべき場所へ収めることができるので、これを「有茎」皮弁と呼ぶ。股間から遠い部位から、皮弁を移動しなければ行けない場合は、血管や神経を切断するため、これを「遊離」皮弁と呼ぶ。以下、それぞれ解説をする。

FTMのSRS

=乳房切除
=子宮・卵巣摘出
=尿道延長
=ミニペニス/Metoidioplasty
= 陰茎形成/Phalloplastyの皮弁

有茎皮弁ー 腹直筋皮弁
遊離皮弁ー 前腕皮弁、ALT、下腿   
 その他皮弁

 











 


1)有茎皮弁


  皮弁(flap)という言葉は何度も出てくる。人の身体で欠損した部位、損傷・損失したものを他の身体の部位から再建する手術方法だ。形成外科領域では必須の手術手技であり、Linkで紹介した書籍にて詳細ご確認を。
 血流のある皮膚から筋肉までの組織を移植する、この技術は身体各所ほとんどのパーツの再建を可能としている。乳がんによる乳房切除の術後、乳房の再建としては人工物を補綴する方法もあるが、自分の身体から再建する方法もある。これは、皮弁採取のために
新たな傷が発生するデメリットはあるが、自分の体から組織を得るため拒絶反応は起きにくい。後述の、遊離皮弁によるPhalloplastyで皮弁を採取した後、欠損部を別の場所から採取した皮膚で覆う程度は、自分の体の組織なので生着率は高い。皮弁は筋肉までを(深い)採取するので、血流がないとその組織は死んでしまう。皮弁は血管も一緒に移動させることが前提となる。そのため、有茎皮弁は採取部位と移転先が比較的近い。血管を分離することなく、近隣の移植先へ組織を移動するので有茎皮弁となる。

下図例) 腹直筋皮弁→ 乳房再建  大殿筋皮弁(尻)→ 仙骨部褥瘡形成  脛腹筋(ふくらはぎ)→ 踵部の組織欠損

(1)腹直筋皮弁(abdominal flap


 腹直筋を陰茎の芯にして、周囲皮膚を丸めて陰茎を作る方法。
Tube-in(within)-tubeと言われるように、最初のオペでは24Frカテーテルを腹部へ留置した後に筒状の尿道(tube)を包んで陰茎にする(within-tube)。陰茎だけの幅を皮弁として、開いた部分は縫縮するので幅にして15cm前後を一気に縮める。オペ後は体がくの字型に曲がるため、しばらくは動くのにも不自由がある。片側からのみ皮弁を採取すること、皮下を通して恥骨部へ陰茎を持ってくるが、距離や方向に無理があり、陰茎が不自然な向きになりがち。腹直筋を芯にするため割かれた筋肉は、一生そのまま欠損している。腹部は触ると左右差がはっきりと分かる。根元にクリトリスを温存しているので、その知覚は残存しているが、陰茎自体に知覚はない。


(2)Bird-wing abdominal flap


 腹直筋皮弁が縦に長い切開傷が残ることから、皮弁部位の瘢痕化を最小限にしようと考案された術式。鼠蹊部に沿った切開傷でパンツの下に手術痕は隠れる。血管も左右から皮弁に含まれるので、より安定した血流を確保できる。2枚の皮弁を合わせるため、直筋皮弁に比べて勃起用インプラントを留置する余裕がある。血行は確保されているがMicorsurgeryにて神経を吻合しているわけではないので、陰茎そのものに知覚はない。

 

 


 

 

 

 

                                               

Bird-wing-abdominal flap 例   phalloplasty.net

 


2)遊離皮弁(Free flap)


再建部位が離れている、または繊細な動きを必要とされる部位の場合に、遊離皮弁が選択される。これは先の「有茎(血管を切断せず筋肉ごと移植させる)皮弁」と異なり、血管に加えて神経も一緒に移植する。血管と神経を切断して、 顕微鏡下で移植先の血管と神経を吻合するmicrosurgeryを行うため、高度な技術が要求される。Linkの岡山大形成外科トレーニングプログラムを参照。

血管や神経は0.3mmから3mm程度まで、 コンマmm単位で糸を操る世界で、使う針も特殊なものを使っている。
血管と神経、どちらも顕微鏡を見ながらの手技になるが大きな違いとして、血管は繋げたその瞬間から、血液の流れるチューブとして活躍する。一方の神経は、機能の回復には時間がかかる。神経の構造図は、光ファイバーケーブルのようなもの。
細い神経が沢山集まり束になり、それが集まると1本の神経になる。

 

 細い神経の束は4000本と言われている。神経束1本1本は更に細い神経線維の集合体(右図)で、その全てを縫合することは不可能。ざっくりと外側の髄鞘同士を繋げる方法、または神経束をある程度吻合して、最後に外側の髄鞘を縫合する方法とある。極論すれば、ざっくり縫っても再生はするし、その程度は個人差がある。Phalloplastyなので、神 経 機能の回復に求めることはただ一つ、鋭敏な知覚がどこまで回復するかだ。あとは、神経束の更に微細な神経線維が、どれだけ接続をして再生するかである。
 機能回復という点で理想的には、microsurgeryはよい技術だが、縫合の良し悪しと回復具合に結果が左右される。MicrosurgeryによるPhalloplastyは、陰茎に適したサイズとなるよう、使える皮弁が限られてくる。日本で初のPhalloplastyとなった1996年の埼玉医科大学によるオペでは、三角筋皮弁(上腕)を選択している。この場所は太巻きになりがちで、その後まもなく主流は前腕皮弁に移行した。タイの某所でも2016年には三角筋皮弁Phalloplastyが行われたが、これは腕が細いため選択されたケースで、皮弁の選択肢は腕の太さ、太巻きになり過ぎないetc等の条件を勘案して決定される。
前腕皮弁が最も理想的とされる。皮下脂肪が適度に残り、太すぎず細すぎずの陰茎が作れるからだ。しかし、女性の
腕の太さであるFTMの場合、皮弁採取ができない細い場合もある。光嶋医師(2016年現在東大教授)が考案した、キメラ皮弁(下腿など他部位からも皮膚を採取して間に合わせる)で形成する方法もある。ここでは、皮弁採取部位として選択されれるメジャーな3部位を紹介し、頻度は少ないが、世界ではPhalloplastyで選択される皮弁について紹介をする。