遊離皮弁によるPhalloplasty(陰茎形成)
(1)前腕皮弁 (RFF flap)
動画(準備中)
前腕皮弁(RFF/前腕の橈骨側から採取する皮弁)はPhalloplastyの皮弁としてよく選択される。ドナー部位の皮下脂肪が薄く、尿道形成と筒状の陰茎に成形をしても極太になりにくい。FTMの場合体毛も少ないことが多く、脱毛も容易である。微細な動きをする前腕の神経を知覚枝として、陰部の神経と吻合するため、性的感覚の獲得にも有利。ただし、前腕という目立つ場所であり近年はFTMのPhalloplastyが前腕で行われる情報も流布されている。知る人が見れば、アウティングに繋がる危険性が高い。知覚枝として採取する神経は再生しないので、母指根元の感覚鈍麻、握力の低下が永久的に残る。
皮弁自体が薄い為、人工勃起用インプラントの挿入が困難なことがある。同様に、皮弁の薄さから尿道瘻孔の多さも報告されている(Penile Reconstruction:Is
the Radial Forearm Flap Really the Standard techinique Plastic & Reconstructive
Surgery:
August 2009 - Volume 124 - Issue 2 - pp 510-518)
症例:「tube-in-tube前腕陰茎形成後の、再建尿道一部壊死から尿道再建を行った2症例」
(2)前外側大腿皮弁(ALT flap)
大腿(ふともも)からの皮膚、脂肪と筋膜を皮弁に含めるため、皮下脂肪が厚いと巨大な
陰茎が完成するので、皮下脂肪厚の調整が必要。目安として、Phalloplastyに最適とされ
る遊離前腕皮弁の厚さと、大腿部のつまんだ皮膚-脂肪厚を比較するとよい。
ALT皮弁は外側大腿皮神経の末梢枝、外側大腿回旋動脈の分枝の供給を受けている。通常の遊離皮弁は、皮弁採取部位から「遊離」させるため、血管、神経を一旦切断して、股間の血管と神経へ再吻合する。このALT皮弁では、動・静脈を切断することなく皮下トンネルを通して股間へ移動させる。血管の配置に注意する必要はあるが、血管吻合時の縫合不全、出血リスクは回避できる。そのためMicrosurgeryの手技としては、神経の再吻合に労力を注ぐことができるので、医療者と患者双方にとってメリットは大きい。
ALT皮弁の栄養血管となる穿通枝は直径1~3mm(陰茎動脈~冠状動脈とほぼ同径)と、十分な太さがある。
機能的な形成陰茎の条件の中に、良好な排尿が得られる、審美性、適度な太さ長さの保持、がある。最も重要なのが排尿のための尿道、だろう。形成陰茎の根部に開口する方法Paritarl Urethroplasty(下図)もあるがPhalloplastyに立位排尿を期待するFTMにとって、現実的な選択といえない。
前外側大腿皮弁で、1回の手術で尿道と陰茎を形成する方法もあるが、大腿部へ事前に尿道を形成した数ヶ月後以降に、Phalloplastyを行うアプローチを紹介する。尿道となる部位を予め、前腕、鼠径部や大腿などの皮膚を採取して、カテーテルを包む。これを大腿の皮下トンネルへ通す。皮膚と大腿皮下の組織が生着すると、尿道準備の完成である。
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大腿部に限らず、腹部、下腿、前腕のいずれも尿道を形成すると、創部と形成尿道の状態が落ち着くまで約半年。形成尿道から皮弁を形成してPhalloplastyを行うのは、それ以降となる。それまで、形成尿道に22~24Frサイズのカテーテルを留置し続けて、内腔のケアをする必要がある。私の場合は挿入の際に内腔を傷つけてドレナージが必要になったが、それ以降は中をシャワーの湯で洗う程度。基本的に、尿道といっても組織としては「単なる皮膚」です。
タイの病院で退院する際に消毒薬やシリンジetc頂くが、全て人にプレゼント。ブログでも度々書いているが、「消毒」という前近代的な医療処置もどきが本当に必要な場面は、ごくごくわずか。一般の人が社会生活を送っている中で(トランスジェンダーの術後ケアも含む)消毒が必要な場面は、皆無といって良い。不思議な医療習慣である。 ということで、形成尿道は術後の帰国直後からぬるま湯を流すだけ、カテーテルも石鹸で洗うだけ、です。一例動画は以下に(3分30秒)
症例: 「ALT皮弁でPhalloplastyをおこなったFTMの事例」
(3 )腓骨皮弁(Fibural flap) 準備中